愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.180
「ニキビかと思ったら膿が出て……」、毛嚢炎と細菌性皮膚感染症のはなし
今号のポイント
- 2毛嚢炎は毛穴の細菌感染。軽症は局所ケアで治るが、広がると癤(せつ)・癰(よう)に進展する
- 4市中MRSA感染が増加しており、通常の抗菌薬が効かない皮膚感染症に注意が必要
- 6「赤く腫れて熱がある」「赤みが急速に広がる」場合は蜂窩織炎の可能性があり、早めの受診が大切
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「おしりにニキビみたいなものができて、どんどん大きくなりました」「とびひかと思ったけど、もっと深いところに膿がたまっているようです」、お子さんの皮膚に赤く腫れた"できもの"ができると心配ですよね。今回は、毛穴の感染症である毛嚢炎と、それに関連する細菌性皮膚感染症についてお話しします。とびひ(伝染性膿痂疹)については Vol.52 でお話ししましたので、あわせてご覧ください。
Q1.「毛嚢炎ってどんな病気ですか? ニキビとは違うのですか?」
——3歳の娘のおしりに赤いプツプツができています。ニキビでしょうか?
おしりにできた赤いプツプツは、毛嚢炎(もうのうえん)の可能性が高いです [1]。毛嚢炎は毛穴(毛包)に細菌が感染して起こる炎症で、毛穴を中心に赤い丘疹や小さな膿疱ができるのが特徴です [1]
毛嚢炎とニキビの違い [1][2]:
毛嚢炎
- 原因
- 黄色ブドウ球菌が主な原因菌 [1]
- 好発年齢
- 全年齢(乳幼児にも起こる)
- 好発部位
- おしり、太もも、頭皮、腋窩 [1]
- 見た目
- 毛穴を中心に赤い丘疹・膿疱 [1]
- 特徴
- 1つの毛穴ごとに独立した炎症 [1]
ニキビ(尋常性ざ瘡)
- 原因
- 毛穴の詰まり+アクネ菌の増殖 [2]
- 好発年齢
- 思春期(皮脂分泌が増える時期)
- 好発部位
- 顔、胸、背中 [2]
- 見た目
- 面疱(コメド)+炎症性丘疹 [2]
- 特徴
- 面疱(白ニキビ・黒ニキビ)を伴う [2]
毛嚢炎の原因と誘因 [1][3]:
| 原因・誘因 | 説明 |
|---|---|
| 黄色ブドウ球菌 | 最も多い原因菌 [1] |
| 汗・蒸れ | おむつ内、汗をかきやすい部位でリスクが上がる [3] |
| 皮膚の傷 | 掻き傷、虫刺されの掻き壊し、剃毛後などから菌が侵入 [1] |
| 免疫低下 | ステロイド長期使用、糖尿病など [3] |
| 不衛生な環境 | プールやジャグジーでの緑膿菌性毛嚢炎も知られる [3] |
毛嚢炎は軽症なら自然に治ることもありますが、悪化すると感染がより深部に及んで癤(せつ:おでき)になります [1]。さらに複数の癤が融合すると癰(よう)と呼ばれる状態になり、強い痛みと発熱を伴います [1]
ポイント
- 毛嚢炎は毛穴の細菌感染。主な原因菌は黄色ブドウ球菌 [1]
- ニキビ(思春期に多い)とは異なり、全年齢で起こりうる [1][2]
- 軽症は自然治癒するが、悪化すると癤(おでき)に進展する [1]
Q2.「癤(おでき)ができました。自分で潰していいですか?」
——子どものわきの下に大きな赤い"おでき"ができて、中に膿がたまっているようです。自分で潰して膿を出したほうがいいのでしょうか?
ご自宅で潰すのはおすすめしません [1][4]。不適切な排膿は感染を周囲に広げたり、より深部に押し込んだりするリスクがあります [4]
毛嚢炎から進展する皮膚感染症の段階 [1][4]:
| 段階 | 病名 | 状態 | 大きさの目安 |
|---|---|---|---|
| 軽症 | 毛嚢炎 | 毛穴を中心に小さな赤い丘疹・膿疱 | 数mm |
| 中等症 | 癤(せつ) | 毛包全体〜周囲組織の感染。赤く腫れて痛い"おでき" | 1〜3cm [4] |
| 重症 | 癰(よう) | 複数の癤が融合。広範囲に膿がたまる。発熱を伴うことが多い | 3cm以上 [4] |
癤(せつ)の治療 [1][4]:
| 状態 | 治療法 |
|---|---|
| 小さい(2cm未満)、膿が明らかでない | 温罨法(温めたタオルを1日3〜4回当てる)で自然排膿を促す [4] |
| 膿が明らかにたまっている(波動あり) | 切開排膿(医療機関で処置)[4] |
| 周囲の発赤が広がっている | 切開排膿+抗菌薬内服 [4] |
| 発熱を伴う・顔面にできた | 抗菌薬内服+切開排膿。顔面は合併症リスクが高い [4] |
| 繰り返す場合 | MRSA保菌の検査、除菌治療を検討 [5] |
温罨法のやり方は簡単です。清潔なタオルをお湯で温めて、癤の部分に15〜20分間当てます。これを1日3〜4回繰り返すと、膿が表面に集まり自然に排出されることがあります [4]。ただし、2〜3日で改善しない場合や、腫れが3cm以上に広がる場合は受診してください
——癤が繰り返しできるのですが、何か原因がありますか?
繰り返す癤(反復性癤腫症)の場合、鼻腔内の黄色ブドウ球菌保菌が原因のことがあります [5]。黄色ブドウ球菌は健康な人の約30%の鼻腔に常在しており、ここから皮膚に菌が移動して感染を繰り返すのです [5]。この場合、ムピロシン軟膏(バクトロバン)を鼻腔に塗布する除菌治療が有効です [5]
ポイント
- 癤(おでき)は自分で潰さない。不適切な排膿は感染拡大のリスク [4]
- 小さな癤は温罨法で自然排膿を促す。2〜3日で改善しなければ受診 [4]
- 繰り返す場合は鼻腔内の保菌検査を。除菌治療で再発を防げることがある [5]
Q3.「MRSA って何ですか? 子どもにも関係ありますか?」
——ニュースで"MRSA"という言葉を聞いたことがあります。病院で感染する怖い菌ですよね? 子どもにも関係あるのでしょうか?
以前は"MRSA=病院の中で広がる菌"というイメージが強かったのですが、近年は入院歴のない健康な子どもの皮膚感染症からもMRSAが検出されるケースが増えています [5][6]。これを市中感染型MRSA(CA-MRSA)と呼びます [6]
MRSAについて知っておきたいこと [5][6][7]:
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| MRSAとは | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌。通常の抗菌薬(セファレキシンなど)が効きにくい [5] |
| 院内感染型(HA-MRSA) | 入院患者に多い。従来のMRSA [5] |
| 市中感染型(CA-MRSA) | 入院歴のない健康な人にも起こる。皮膚軟部組織感染症が主 [6] |
| 子どもへの影響 | 保育園や学校での集団感染の報告が増加 [6][7] |
| リスク因子 | 集団生活(保育園・学校)、格闘技、家族内伝播 [6] |
CA-MRSAによる皮膚感染症の特徴 [6][7]:
| 特徴 | 説明 |
|---|---|
| 見た目 | "蜘蛛に噛まれたような"腫れ(壊死を伴う膿瘍)と表現されることがある [6] |
| 経過 | 通常の毛嚢炎・癤より急速に悪化することがある [6] |
| 通常の抗菌薬が効かない | セファレキシンなど第一世代セフェムが無効 [5] |
| 有効な抗菌薬 | ST合剤(バクタ)、クリンダマイシン、ミノサイクリン等 [5][7] |
ただし、すべての皮膚感染症がMRSAというわけではありません [5]。CA-MRSAを疑うのは、通常の抗菌薬で改善しない場合や、急速に悪化する膿瘍がある場合です [6]。膿がたまっている場合は切開排膿と培養検査を行い、原因菌を確認してから適切な抗菌薬を選択します [5][7]
——予防法はありますか?
基本的な衛生対策が最も大切です [7]。こまめな手洗い、傷口の清潔保持、タオルや衣類の共有を避けることです。保育園での集団感染が疑われる場合は、園と連携して対策を行います [7]
ポイント
- 市中感染型MRSA(CA-MRSA)は健康な子どもにも起こりうる [6]
- 通常の抗菌薬が効かない場合にMRSAを疑う [5][6]
- 膿瘍がある場合は切開排膿+培養検査が重要 [5][7]
- 手洗い・傷口の清潔保持・タオル非共有で予防 [7]
Q4.「蜂窩織炎(ほうかしきえん)という診断を受けました。どんな病気ですか?」
——子どもの足がすごく赤く腫れて、触ると熱い感じがして、受診したら"蜂窩織炎"と言われました。怖い病気でしょうか?
蜂窩織炎は皮膚の深い層(真皮〜皮下組織)に細菌が侵入して広がる感染症です [8][9]。毛嚢炎や癤が毛穴を中心とした局所的な感染であるのに対し、蜂窩織炎は境界が不明瞭な広範囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛が特徴です [8]
蜂窩織炎と癤の違い [1][8]:
癤(せつ)
- 感染の深さ
- 毛包〜毛包周囲
- 見た目
- 毛穴を中心とした限局した腫脹
- 膿の有無
- 中心に膿がたまる
- 原因菌
- 黄色ブドウ球菌
- 全身症状
- 通常なし
- 治療
- 局所ケア±抗菌薬
蜂窩織炎
- 感染の深さ
- 真皮〜皮下組織の広範囲 [8]
- 見た目
- 境界不明瞭に広がる発赤・腫脹 [8]
- 膿の有無
- 膿は形成しないことが多い(膿瘍を伴う場合もある)
- 原因菌
- A群溶連菌、黄色ブドウ球菌 [8][9]
- 全身症状
- 発熱・倦怠感を伴うことがある [8]
- 治療
- 抗菌薬内服(重症は入院・点滴) [9]
蜂窩織炎のきっかけになりやすい状況 [8][9]:
| きっかけ | 説明 |
|---|---|
| 皮膚の傷 | 擦り傷、切り傷、虫刺されの掻き壊し [8] |
| とびひ(膿痂疹)の悪化 | 表面の感染が深部に広がる [9] |
| 水ぼうそうの水疱 | 水疱の掻き壊しから細菌が侵入 [9] |
| 湿疹の掻き壊し | アトピー性皮膚炎の皮膚バリア低下 [8] |
蜂窩織炎の治療は抗菌薬が中心です [9]。軽症なら内服抗菌薬(セファレキシンやアモキシシリン/クラブラン酸など)で治療しますが、発熱がある・広範囲に広がっている・顔面に及んでいる場合は入院して点滴抗菌薬が必要になることがあります [9]
蜂窩織炎で受診すべきサイン [8][9]:
| すぐに受診(当日) | 救急受診 |
|---|---|
| 皮膚の赤み・腫れが急速に広がる | 高熱(39℃以上)+皮膚の赤み・腫れ |
| 触ると熱い・痛い | 赤みの範囲をペンで印をつけたら数時間で広がった |
| 発熱を伴う | ぐったりしている |
| 目の周りが赤く腫れた | 赤い線が体の中心に向かって広がる(リンパ管炎) |
赤みの範囲をペンで縁取っておくと、広がっているかどうかが客観的にわかります [9]。自宅で経過観察している場合にこの方法が役立ちます
ポイント
- 蜂窩織炎は皮膚の深い層に広がる細菌感染。境界不明瞭な発赤・腫脹が特徴 [8]
- 原因菌はA群溶連菌と黄色ブドウ球菌が多い [8][9]
- 赤みが広がる・発熱がある場合は早めに受診 [9]
- 赤みの縁をペンで印をつけると経過が追いやすい [9]
Q5.「皮膚の"できもの"で受診すべき目安を教えてください」
——皮膚にできものができたとき、様子を見ていいのか、すぐ病院に行くべきなのか、いつも迷います。判断の目安を教えてもらえますか?
とてもよいご質問です。皮膚の細菌感染症を自宅で経過観察できる場合と受診すべき場合の判断基準をまとめますね [1][4][8][9]
自宅で経過観察できるケース [1][4]:
| 状態 | 対応 |
|---|---|
| 毛穴を中心とした小さな赤い丘疹(数mm) | 清潔を保ち経過観察。抗菌薬入りの軟膏を塗布 |
| 小さな癤(2cm未満、発熱なし) | 温罨法(1日3〜4回)で自然排膿を待つ [4] |
| 赤みが限局していて広がらない | 清潔保持+抗菌薬軟膏で2〜3日経過観察 |
受診すべきケース [4][8][9]:
緊急度
- 腫れが3cm以上に大きくなった
- 当日〜翌日受診
- 2〜3日の経過観察で改善しない
- 当日〜翌日受診
- 発熱を伴う
- 当日受診
- 赤みが急速に広がる
- すぐに受診
- 顔面(特に目の周り)にできた
- 当日受診
- 繰り返す(年に数回以上)
- 近日中に受診
- 赤い線が体の中心に向かって広がる
- すぐに受診
- ぐったりしている、機嫌がとても悪い
- 救急受診
理由
- 腫れが3cm以上に大きくなった
- 切開排膿が必要な可能性 [4]
- 2〜3日の経過観察で改善しない
- 抗菌薬が必要な可能性 [4]
- 発熱を伴う
- 蜂窩織炎や菌血症の可能性 [8]
- 赤みが急速に広がる
- 蜂窩織炎の可能性 [8]
- 顔面(特に目の周り)にできた
- 合併症リスクが高い [9]
- 繰り返す(年に数回以上)
- MRSA保菌やその他の検査が必要 [5]
- 赤い線が体の中心に向かって広がる
- リンパ管炎の可能性 [8]
- ぐったりしている、機嫌がとても悪い
- 敗血症の可能性
予防のための日常ケア [1][3][7]:
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 手洗い | 石鹸でこまめに手を洗う [7] |
| 爪を短く切る | 掻き壊しによる感染予防 [1] |
| 傷口の清潔保持 | すり傷・切り傷は流水で洗い、絆創膏で保護 [1] |
| 汗のケア | 汗をかいたらシャワーを浴びる。蒸れを減らす [3] |
| タオル・衣類の共有を避ける | 家族間でもタオルは個別に [7] |
| 鼻をいじらない | 鼻腔内の黄色ブドウ球菌が手を介して皮膚に広がる [5] |
とびひ(Vol.52参照)も含めて、皮膚の細菌感染症は"清潔""傷口の保護""掻き壊さない"の3つが予防の基本です [1]。迷ったときは受診していただくのが一番安心です。"こんなことで受診していいのかな"と思わず、遠慮なくご相談くださいね
ポイント
- 小さな毛嚢炎は清潔保持で経過観察。2〜3日で改善しなければ受診 [1][4]
- 発熱・急速な赤みの拡大・顔面の腫れは早めに受診すべきサイン [8][9]
- 繰り返す場合はMRSA保菌検査を検討 [5]
- 予防の基本は手洗い・爪切り・傷口の保護 [1][7]
まとめ
- 毛嚢炎は毛穴に細菌(主に黄色ブドウ球菌)が感染して起こる。軽症は自然治癒するが、悪化すると癤(おでき)や癰に進展する [1]
- 癤は自分で潰さない。温罨法で自然排膿を促し、改善しなければ受診して切開排膿を受ける [4]
- 市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増加。通常の抗菌薬が効かない皮膚感染症に注意 [5][6]
- 蜂窩織炎は皮膚の深い層に広がる感染症。発赤が急速に広がる・発熱がある場合は早急に受診 [8][9]
- 予防の基本は手洗い・爪を短く切る・傷口の清潔保持。タオルの共有を避ける [1][7]
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