愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.179
「水虫は大人の病気」と思っていませんか?、子どもの白癬のはなし
今号のポイント
- 2白癬(水虫)は子どもにもうつる。子どもでは頭部白癬が最も多く、フケや脱毛斑として見つかる
- 4柔道・レスリングなどの格闘技ではトリコフィトン・トンスランス感染症が問題になっている
- 6頭部白癬は外用薬だけでは治せず、内服抗真菌薬が必要。早めの受診が大切
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「水虫って大人がなるものじゃないんですか?」「子どもの頭にフケが出て、円形脱毛症かと思ったら白癬だったんです」、水虫というと大人の足のイメージが強いですが、子どもにも白癬菌の感染は普通に起こります [1]。しかも子どもの場合は足ではなく頭にできることが多いんです [2]。今回は、意外と見逃されやすい子どもの白癬についてお話しします。
Q1.「そもそも白癬ってどんな病気ですか?」
——白癬=水虫ですよね? 足がかゆくなるあれですか?
はい、水虫は白癬の一種です。正確には、白癬菌(はくせんきん)という真菌、つまりカビが皮膚や毛、爪に感染して起こる病気の総称が白癬です [1]。感染する場所によって呼び名が変わってきます
白癬菌感染症の種類 [1][2]:
| 感染部位 | 病名 | 通称 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 足 | 足白癬 | 水虫 | 大人に最も多い。趾間型・小水疱型・角化型がある [1] |
| 爪 | 爪白癬 | 爪水虫 | 爪が厚く白濁する。子どもには比較的まれ [1] |
| 頭 | 頭部白癬 | しらくも | 子どもに多い。フケ・脱毛斑が特徴 [2] |
| 体 | 体部白癬 | たむし・ぜにたむし | 赤い環状の発疹(リングワーム) [1] |
| 股 | 股部白癬 | いんきんたむし | 鼠径部のかゆみ・発赤 [1] |
| 手 | 手白癬 | 手の水虫 | 片手だけの角化・落屑 [1] |
大人は足白癬が圧倒的に多いのですが、子どもでは頭部白癬と体部白癬が多いのが特徴です [2][3]。特に頭部白癬は小児に特有と言ってもよい感染症で、思春期前の子どもに集中して発生します [2]
——なぜ子どもは足ではなく頭にできるのですか?
思春期前の子どもの皮脂には、白癬菌の増殖を抑える脂肪酸が少ないためと考えられています [2][3]。思春期を迎えると皮脂の組成が変わり、頭皮に白癬菌が定着しにくくなるため、頭部白癬は自然に減少します [2]
ポイント
- 白癬は白癬菌(カビ)が皮膚に感染する病気。感染部位で名前が変わる [1]
- 大人は足白癬が多いが、子どもは頭部白癬・体部白癬が多い [2][3]
- 思春期前の子どもの頭皮は白癬菌が定着しやすい環境にある [2]
Q2.「頭部白癬はどんな症状ですか? 見分けるポイントはありますか?」
——5歳の息子の頭に、フケが多い部分と髪の毛が薄くなった部分があります。円形脱毛症かと心配しているのですが……
お子さんの年齢と症状からは、頭部白癬も鑑別に入れるべきです [2][4]。頭部白癬は円形脱毛症やアトピー性皮膚炎による頭皮の湿疹と間違われやすく、見逃されやすい病気です [4]
頭部白癬の主な症状パターン [2][4]:
症状
- 鱗屑(りんせつ)型
- フケ・かゆみ・軽い発赤
- 脱毛斑型
- 境界明瞭な円形〜不整形の脱毛斑
- ブラックドット型
- 毛が頭皮表面で折れ、黒い点として見える
- ケルスス禿瘡(とくそう)
- 膿がたまってブヨブヨした腫瘤、圧痛、発熱
特徴
- 鱗屑(りんせつ)型
- 最も多い。脂漏性皮膚炎と間違われやすい [4]
- 脱毛斑型
- 円形脱毛症と間違われやすい [4]
- ブラックドット型
- T. tonsurans に多い [5]
- ケルスス禿瘡(とくそう)
- 重症型。永久的な瘢痕性脱毛を残す可能性がある [2][4]
ケルスス禿瘡は特に注意が必要です [2][4]。これは白癬菌に対する強い免疫反応によって膿瘍のような状態になったもので、適切な治療が遅れると毛包が破壊されて永久に毛が生えなくなる可能性があります [4]。初期にはとびひや膿痂疹と誤診されることもあります
頭部白癬と間違いやすい病気の鑑別 [4]:
| 疾患 | 頭部白癬との違い |
|---|---|
| 円形脱毛症 | 脱毛部の皮膚はツルツルで炎症が少ない。フケが目立たない |
| 脂漏性皮膚炎 | フケは黄色みがかった脂っぽいタイプ。脱毛はあまりない |
| アトピー性皮膚炎 | 頭皮以外にも湿疹がある。かゆみが強い |
| 乾癬 | 銀白色の厚い鱗屑。肘や膝にも病変がある |
| とびひ(膿痂疹) | 黄色い浸出液とかさぶた。白癬菌ではなく細菌感染 |
——見た目だけでは判断が難しいということですね。どうやって診断するのですか?
確定診断にはKOH直接鏡検を行います [1][4]。これは、フケや毛髪を採取して水酸化カリウム(KOH)で溶かし、顕微鏡で白癬菌の菌糸や胞子を確認する検査です [1]。痛みはなく、数分で結果がわかります。頭に原因不明のフケや脱毛がある場合は、ぜひ皮膚科を受診してください
ポイント
- 頭部白癬はフケ・脱毛斑として現れ、円形脱毛症と間違われやすい [2][4]
- ケルスス禿瘡は重症型で、治療が遅れると永久的な脱毛を残す [4]
- 確定診断はKOH直接鏡検。フケや毛髪を顕微鏡で確認する簡単な検査 [1]
Q3.「治療はどうするのですか? 塗り薬で治りますか?」
——水虫って塗り薬で治すイメージなのですが、頭の場合も同じでしょうか?
ここが重要なポイントです。体部白癬(たむし)は外用抗真菌薬で治療できますが、頭部白癬は外用薬だけでは治りません [2][6]。頭部白癬の治療には内服抗真菌薬が必要です [6]
白癬の治療法(部位別) [1][2][6]:
治療法
- 足白癬
- 外用抗真菌薬(ルリコナゾール、テルビナフィンなど)
- 体部白癬
- 外用抗真菌薬
- 頭部白癬
- 内服抗真菌薬(テルビナフィン、イトラコナゾール、グリセオフルビン等)
- 爪白癬
- 内服抗真菌薬 or 外用(エフィナコナゾール)
治療期間の目安
- 足白癬
- 2〜4週間(症状消失後も1〜2ヶ月継続)
- 体部白癬
- 2〜4週間
- 頭部白癬
- 6〜12週間 [6]
- 爪白癬
- 3〜6ヶ月以上
頭部白癬で内服薬が必要な理由は、白癬菌が毛包の奥深くに侵入しているため、外用薬では届かないからです [2][6]。日本ではグリセオフルビンの入手が困難なため、テルビナフィン(ラミシール)やイトラコナゾール(イトリゾール)が使用されることが多いです [6]
頭部白癬の治療で注意すること [2][6]:
| 注意点 | 説明 |
|---|---|
| 治療期間を守る | 症状が改善しても最低6〜8週間は内服を続ける [6] |
| 外用の併用 | 内服に加えて抗真菌外用薬の併用が推奨されることがある [6] |
| ケルスス禿瘡の場合 | 抗真菌薬+短期間のステロイド内服が必要なことがある [2] |
| シャンプー | ケトコナゾールシャンプー(2%)の併用で菌量を減らせる [6] |
| フォローアップ | 治療終了後にKOH検査で治癒確認が必要 [6] |
——内服薬の副作用は心配ないですか?
テルビナフィンは比較的安全性の高い薬ですが、肝機能障害がまれに起こるため、治療期間中は定期的に血液検査を行います [6]。また、消化器症状(腹痛、下痢)や味覚異常が出ることがありますが、多くは軽度で一時的です [6]。副作用を恐れて治療を中断すると再発するため、主治医の指示に従って最後まで飲みきることが大切です
ポイント
- 頭部白癬は外用薬だけでは治らない。内服抗真菌薬が必要 [2][6]
- 治療期間は6〜12週間。途中でやめると再発する [6]
- 内服中は定期的な肝機能検査を行う [6]
- ケトコナゾールシャンプーの併用で感染拡大を防げる [6]
Q4.「柔道やレスリングで水虫がうつると聞いたのですが、本当ですか?」
——息子が柔道を習い始めたのですが、"格闘技で水虫がうつる"と聞いて心配しています
ご心配はもっともです。格闘技で問題になっているのは、トリコフィトン・トンスランス(T. tonsurans)という白癬菌による感染症です [5][7]。通常の白癬菌とは異なる特徴を持っています
T. tonsurans 感染症の特徴 [5][7][8]:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因菌 | Trichophyton tonsurans(元来は日本にいなかった菌) [5] |
| 感染経路 | 身体接触(組み手、寝技)、畳やマットの共用 [7] |
| 好発年齢 | 中学生〜高校生の格闘技選手 [5][7] |
| 好発部位 | 頭部、顔、頸部、体幹(接触部位) [5] |
| 症状の特徴 | 軽微なことが多く見逃されやすい。頭部はブラックドット型脱毛 [5] |
| 問題点 | 無症候性キャリアが多く、知らないうちに周囲に広げる [7][8] |
T. tonsurans は2000年代に入って日本の格闘技界で急速に広がりました [5][7]。この菌は症状が軽いために"水虫"と気づかれず、感染が広がりやすいのが問題です [7]。日本臨床皮膚科医会や日本皮膚科学会でも注意喚起がなされています [8]
T. tonsurans への対策 [5][7][8]:
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 練習後のシャワー | 練習後24時間以内にシャンプー・シャワーで菌を洗い流す [7] |
| マット・畳の清掃 | 練習前後に消毒液で拭き取り [7] |
| 道具の共有をしない | タオル、ヘッドギア、練習着は共有しない [7] |
| 症状の早期発見 | 頭のフケ・脱毛、顔や体の赤い発疹に注意 [5] |
| スクリーニング検査 | チーム全体でKOH検査や培養検査を行い、キャリアを早期発見 [8] |
| 大会前の検査 | 日本レスリング協会等では大会前の検査を推奨 [8] |
——知らないうちに広がっているかもしれないんですね……
はい。練習後にしっかりシャワーを浴びることが最も効果的な予防法です [7]。また、頭にフケが出る、髪が抜ける、体に赤い輪のような発疹があるなどの症状があれば、早めに皮膚科を受診してください。チーム全体で対策することが重要です [8]
ポイント
- 格闘技ではT. tonsuransによる白癬感染が問題になっている [5][7]
- 症状が軽く無症候性キャリアが多いため、知らないうちに広がる [7][8]
- 練習後のシャワーが最も効果的な予防法 [7]
- チーム全体でのスクリーニング検査が推奨される [8]
Q5.「家族内で白癬がうつらないためにはどうすればいいですか?」
——子どもが白癬と診断されました。私や下の子にうつらないか心配です
白癬は家族内感染が非常に起こりやすい病気です [1][9]。特に、お父さんやお母さんの足白癬から子どもの体や頭にうつるケースは珍しくありません [9]。逆に、子どもの頭部白癬から家族に広がることもあります
白癬の感染経路 [1][9]:
| 感染経路 | 具体例 |
|---|---|
| 直接接触 | 裸足での接触、肌と肌の接触 [1] |
| 間接接触 | バスマット、タオル、スリッパ、枕の共用 [9] |
| ペットから | 犬・猫・ウサギなどから人への感染(ミクロスポルム・カニス等) [9] |
| 床・畳 | 白癬菌は環境中に長期間生存する [9] |
家族内感染を防ぐための対策 [1][9][10]:
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| バスマットの個別使用 | 家族共用のバスマットは白癬菌の温床になる [9] |
| タオル・寝具の共有をやめる | 枕カバー、タオルは個別に使用 [9] |
| スリッパの個別使用 | 特に足白癬がある家族がいる場合 [9] |
| 床の掃除 | 白癬菌はフケや毛髪とともに落ちる。掃除機をこまめにかける [9] |
| 家族全員の検査 | 一人が診断されたら家族全員の足・頭を確認 [10] |
| ペットの確認 | 犬猫に脱毛がある場合は獣医を受診 [9] |
| 足白癬の治療 | 親の足白癬が子どもへの感染源になっている可能性。しっかり治療する [9] |
よくあるパターンとして、お父さんの足白癬が子どもの体部白癬の感染源だったというケースがあります [9]。お子さんが白癬と診断された場合は、ご家族全員の足もチェックして、足白癬があれば一緒に治療してください [10]
——ペットからもうつるんですか?
はい。犬や猫、ウサギ、ハムスターなどのペットから感染することがあります [9]。ペット由来の白癬菌(主にMicrosporum canis)は炎症が強く出やすいのが特徴です [9]。ペットに円形の脱毛がある場合は獣医を受診し、同時にお子さんにも症状がないか確認してください
受診のタイミング [2][4][10]:
| 症状 | 対応 |
|---|---|
| 頭にフケが増えた、髪が抜ける部分がある | 早めに皮膚科を受診 |
| 体に赤い輪のような発疹がある | 皮膚科を受診 |
| ケルスス禿瘡(頭にブヨブヨした腫れ・膿) | すぐに皮膚科を受診(永久脱毛のリスク) |
| 家族に白癬がいる+子どもに何らかの皮膚症状 | 皮膚科を受診 |
| 格闘技をしている+頭部・顔の皮膚症状 | 皮膚科を受診 |
ポイント
- 白癬は家族内感染しやすい。バスマット、タオル、スリッパは個別に [9]
- 親の足白癬が子どもの感染源になっていることがある [9]
- ペットからの感染もある。ペットの脱毛に注意 [9]
- 子どもが白癬と診断されたら家族全員の検査を [10]
まとめ
- 白癬(水虫)は子どもにも起こる。子どもでは足ではなく頭部白癬が最も多い [2][3]
- 頭部白癬はフケ・脱毛斑として現れ、円形脱毛症と間違われやすい。重症のケルスス禿瘡は永久的な脱毛を残す可能性がある [2][4]
- 診断にはKOH直接鏡検を行う。頭にフケや脱毛がある場合は皮膚科を受診 [1][4]
- 頭部白癬は外用薬だけでは治らず、内服抗真菌薬が必要。治療期間は6〜12週間 [2][6]
- 格闘技ではT. tonsurans感染症が問題。練習後のシャワーとチーム全体での対策が重要 [5][7][8]
- 家族内感染の予防は、バスマット・タオルの個別使用と親の足白癬の治療がカギ [9][10]
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