愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.157
海外旅行、その前に、渡航先別・子どもの予防接種ガイド
今号のポイント
- 2渡航先によって必要なワクチンが異なる。出発の6〜8週間前にはトラベルクリニックに相談を
- 4A型肝炎・狂犬病・腸チフス・黄熱など、国内の定期接種にはないワクチンが必要になることがある
- 6子どもの定期接種が完了しているかの確認が、渡航前の最優先事項
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「家族で東南アジアに旅行する予定ですが、何かワクチンは必要ですか?」「海外赴任が決まりました。子どもの予防接種はどうすればいいですか?」。夏休みや年末年始の長期休暇に向けて、このようなご相談が増えます。
国内の定期接種だけでは不十分な渡航先があります。今号では、渡航先別の推奨ワクチンと、接種スケジュールの組み方についてお伝えします。
Q1.「海外旅行の前に、まず何をすればいいですか?」
——来月、家族でタイに旅行します。子どもは2歳です。何から始めればいいですか?
まず最初に確認すべきことは、お子さんの定期接種が年齢相応に完了しているかです [1]。日本の定期接種スケジュールは世界的に見ても充実していますが、渡航先によっては追加のワクチンが必要になります
やること
- ① 定期接種の確認
- 母子手帳で接種歴を確認。未接種があれば優先的に接種
- ② 渡航先の情報収集
- 厚生労働省検疫所(FORTH)のウェブサイトで推奨ワクチンを確認 [2]
- ③ トラベルクリニック受診
- 渡航医学の専門家に相談。個別のスケジュールを作成
- ④ ワクチン接種開始
- 複数回接種が必要なワクチンもある
- ⑤ 証明書の準備
- 黄熱ワクチンなど、入国時に証明書が必要な場合がある [3]
タイミング
- ① 定期接種の確認
- 出発6〜8週間前 [1]
- ② 渡航先の情報収集
- 出発6〜8週間前
- ③ トラベルクリニック受診
- 出発4〜6週間前
- ④ ワクチン接種開始
- 出発4〜6週間前
- ⑤ 証明書の準備
- 出発2週間前まで
最も重要なのは『出発の6〜8週間前に動き始める』ことです [1]。複数回の接種が必要なワクチン(A型肝炎、狂犬病など)は、十分な免疫を獲得するまでに数週間かかります。直前に慌てると十分な予防ができません
ポイント
- まず定期接種の完了を確認。母子手帳をチェック [1]
- 渡航先の推奨ワクチンはFORTH(厚生労働省検疫所)で確認 [2]
- 出発6〜8週間前にはトラベルクリニックに相談を [1]
Q2.「渡航先によって必要なワクチンが違うんですか?」
——どの国に行くかで、必要なワクチンが変わるんですか?
はい、大きく変わります。渡航先の感染症リスク、滞在期間、旅行スタイル(リゾート vs 農村部)によって推奨されるワクチンが異なります [1][2]
| ワクチン | 推奨される渡航先 | 対象年齢 | 接種回数 |
|---|---|---|---|
| A型肝炎 | 東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米 [4] | 1歳以上 | 2〜3回(6ヶ月間隔) |
| 狂犬病(曝露前接種) | 東南アジア、南アジア、アフリカ(特に犬・動物との接触リスクがある場合)[5] | 全年齢 | 2回(0日、7日)※WHO 2018改訂 |
| 腸チフス | 南アジア(インド等)、東南アジア、アフリカ [6] | 2歳以上 | 1回(注射型) |
| 黄熱 | アフリカ・南米の一部(入国時に証明書が必要な国あり)[3] | 9ヶ月以上 | 1回 |
| 髄膜炎菌 | アフリカの「髄膜炎ベルト」、サウジアラビア(巡礼時)[7] | 2歳以上 | 1回 |
| 日本脳炎(追加) | 東南アジア、南アジアへの長期滞在 | 定期接種完了確認 | 必要に応じて追加 |
たとえばタイへの短期旅行(1〜2週間、都市部中心)であれば、A型肝炎ワクチンが最も優先度が高くなります [4]。一方、インドの農村部に長期滞在する場合は、A型肝炎に加えて腸チフス、狂犬病も推奨されます [5][6]
ポイント
- 渡航先・滞在期間・旅行スタイルで必要なワクチンが異なる [1]
- 東南アジアではA型肝炎が最優先 [4]
- 動物との接触リスクがある場合は狂犬病を検討 [5]
Q3.「A型肝炎ワクチンと狂犬病ワクチンについて詳しく教えてください」
——A型肝炎と狂犬病は、子どもにとってどのくらい危険なんですか?
それぞれ説明しますね
【A型肝炎】[4]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 感染経路 | 汚染された水・食べ物(生の貝類、サラダ、氷など) |
| 症状 | 発熱、倦怠感、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、肝機能障害 |
| 子どもの特徴 | 6歳未満は無症状〜軽症が多いが、周囲の大人に感染させるリスク |
| 予防 | ワクチンが最も有効。生水・生ものを避ける |
| ワクチン | 国内製剤(エイムゲン)は明確な年齢制限なし。小児では1歳以上での接種が一般的。輸入ワクチン(Havrix小児用等)も選択肢 [4](要確認:施設によって運用が異なる) |
【狂犬病】[5]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 感染経路 | 感染動物(犬、猫、コウモリ等)に咬まれる・引っかかれる |
| 致死率 | 発症後はほぼ100%死亡 [5] |
| 子どもの特徴 | 子どもは動物に近づきやすい。小さい体では咬傷が頭部に近くなりやすい |
| 予防 | 渡航前接種(曝露前接種)+動物に触らない |
| 咬まれた場合 | 渡航前接種の有無に関わらず、直ちに傷口を洗浄し、現地の医療機関で曝露後接種を受ける [5] |
狂犬病は発症したら治療法がなく、ほぼ100%死亡するという極めて恐ろしい感染症です [5]。東南アジアやインドでは野犬が多く、お子さんが犬に触ろうとして咬まれるケースが実際にあります。渡航前にワクチンを接種しておくことで、万が一咬まれた場合の曝露後接種の回数を減らし、免疫グロブリンが不要になる(途上国では入手困難なことが多い)メリットがあります [5]
ポイント
- A型肝炎は汚染された水・食べ物で感染。小児には輸入ワクチンを使用 [4]
- 狂犬病は発症後致死率ほぼ100%。動物接触リスクがあれば渡航前接種を [5]
- 子どもは動物に近づきやすい。「動物に触らない」を徹底的に教える
Q4.「黄熱ワクチンはどんな時に必要ですか?」
——アフリカに行く場合は黄熱ワクチンが必要と聞きました
黄熱ワクチンは、入国時に国際予防接種証明書(イエローカード)の提示が義務づけられている国があります [3]。これは他のワクチンにはない特徴です
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 黄熱の流行地域 | アフリカ(サハラ以南)、南米の一部 [3] |
| 証明書が必要な国 | 約40カ国。入国時にイエローカードの提示が必要 [3] |
| 接種対象 | 9ヶ月以上(一部の国では6ヶ月以上で接種可能) |
| 接種回数 | 1回(2016年以降、1回で生涯有効とWHOが推奨)[3] |
| 接種可能な場所 | 検疫所または指定医療機関のみ(一般の小児科では接種不可)[3] |
| 注意点 | 生ワクチンのため、他の生ワクチンとの間隔に注意 |
黄熱ワクチンは接種できる場所が限られていますので、事前に検疫所や指定医療機関に予約を取る必要があります [3]。また、1歳未満のお子さんには原則接種しないため、乳児を連れた黄熱流行地域への渡航は避けることが推奨されます
ポイント
- 黄熱ワクチンは入国に証明書が必要な国がある(イエローカード)[3]
- 接種は検疫所・指定医療機関のみ。事前予約が必要 [3]
- 1歳未満には原則接種不可。乳児連れの流行地域渡航は避ける
Q5.「渡航前の接種スケジュールはどう組めばいいですか?」
——出発まで2ヶ月あります。複数のワクチンを打つ場合、どう組めばいいですか?
出発8週間前から計画的に進めれば、多くのワクチンを完了できます [1]。モデルスケジュールをお示しします
| 時期 | やること |
|---|---|
| 出発8週間前 | トラベルクリニック初回受診。A型肝炎1回目+狂犬病1回目を同時接種 |
| 出発7週間前 | 狂犬病2回目(WHO 2018では曝露前接種は2回完了で可) |
| 出発4週間前 | 腸チフス(必要な場合) |
| 出発2週間前 | A型肝炎2回目(国内エイムゲンは2-4週後に2回目) |
| 帰国後6ヶ月 | A型肝炎3回目(長期免疫のため) |
ポイントは以下の3つです
| ポイント | 説明 |
|---|---|
| 同時接種が可能 | 渡航ワクチンは複数を同日に接種できる [1] |
| 不活化ワクチン同士は接種間隔の制限なし | 2020年の制度改正で、不活化ワクチン同士の接種間隔制限が撤廃 [8] |
| 生ワクチンは注意 | 生ワクチン同士は27日以上の間隔が必要(黄熱+MRなど)[8] |
——出発まで3週間しかない場合はどうすればいいですか?
完璧なスケジュールは組めませんが、一部でも接種することに意味があります。たとえばA型肝炎は1回の接種だけでも2〜4週間の短期防御が得られます [4]。『全部できないから何もしない』ではなく、『できる範囲で最大限の予防をする』という考え方が大切です。トラベルクリニックで優先順位を相談してください
ポイント
- 出発8週間前から計画すれば多くのワクチンを完了できる [1]
- 不活化ワクチン同士は接種間隔の制限なし [8]
- 時間がなくても一部でも接種することに意味がある [4]
Q6.「トラベルクリニックはどこで受けられますか?」
——かかりつけの小児科で渡航ワクチンは打てますか?
一般の小児科でも一部の渡航ワクチン(A型肝炎など)を取り扱っている場合がありますが、輸入ワクチンや黄熱ワクチンなど、専門的な対応が必要な場合はトラベルクリニック(渡航外来)の受診をお勧めします [1]
| 施設 | 特徴 |
|---|---|
| トラベルクリニック(渡航外来) | 渡航医学専門。輸入ワクチンの取り扱いあり。渡航先別のリスク評価が可能 |
| 検疫所 | 黄熱ワクチンの接種が可能。全国の主要空港・港に設置 |
| 日本渡航医学会認定医療機関 | 学会認定の専門施設。日本渡航医学会HPで検索可能 [1] |
| かかりつけ小児科 | 定期接種の追加接種・国内承認ワクチンの接種は相談可能 |
日本渡航医学会のウェブサイトで、全国のトラベルクリニックを検索できます [1]。東京近郊では、国立国際医療研究センター、東京医科大学病院などにトラベルクリニックがあります。受診時には母子手帳、パスポートのコピー、渡航先・滞在期間・旅行スタイルのメモを持参すると、スムーズに相談できます
ポイント
- 専門的な渡航ワクチンはトラベルクリニックで [1]
- 黄熱ワクチンは検疫所・指定医療機関のみ [3]
- 受診時には母子手帳、渡航先情報を持参する
まとめ
- 定期接種の完了確認が渡航前の最優先事項 [1]
- 渡航先によってA型肝炎、狂犬病、腸チフス、黄熱などの追加ワクチンが必要 [2]
- 出発6〜8週間前にはトラベルクリニックに相談を [1]
- 狂犬病は発症後致死率ほぼ100%。動物接触リスクがある地域では渡航前接種を [5]
- 黄熱ワクチンは入国時にイエローカードが必要な国がある [3]
- 時間がなくても一部でも接種することに意味がある [4]
あわせて読みたい
- Vol.45「予防接種スケジュールの考え方」
- Vol.19「同時接種の安全性」
- Vol.156「予防接種の副反応への対応」
- Vol.96「赤ちゃんの初めての外出」
ご質問・ご感想
「渡航前のワクチン、何から手をつけていいかわからなかった」「トラベルクリニックの存在を知らなかった」など、ご感想やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。安全で楽しい海外旅行のために、お役に立てれば幸いです。
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