愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.123
「あれ見て!」が育つとき、指さしと共同注意が教えてくれること
今号のポイント
- 2指さしは「言葉の前の言葉」。興味の指さし→要求→叙述→応答と段階的に発達する
- 4共同注意(三項関係)は社会性と言語発達の土台。9〜12ヶ月頃から発達する
- 61歳半で指さしが出ない場合はASDの早期スクリーニング項目。ただし指さし=ASD診断ではない
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
1歳半健診で必ず確認される「指さし」。「指さししますか?」と聞かれて、「うちの子、あまりしないかも……」と不安になった経験はありませんか? 指さしは単なる仕草ではなく、お子さんの心の発達を映す鏡です。今回は、指さしの発達段階と、その背景にある共同注意(joint attention)の仕組み、そして1歳半健診で確認される理由をお伝えします。
Q1.「指さしにはどんな種類がありますか?」
——指さしって、ただ何かを指差すことですよね?種類があるんですか?
実は、指さしには4つの段階があり、それぞれが異なる心の発達を反映しています [1][2]。
指さしの4つの段階:
| 段階 | 名称 | 時期の目安 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 第1段階 | 興味の指さし | 9〜10ヶ月 | 興味のあるものに手を伸ばす・指で示す | 飛行機を見て「あっ」と指さす [1] |
| 第2段階 | 要求の指さし | 10〜12ヶ月 | 欲しいもの・やってほしいことを指で伝える | 高い棚のお菓子を指さして親を見る [2] |
| 第3段階 | 叙述の指さし | 12〜14ヶ月 | 「あれ見て!」と共有するための指さし | 犬を見つけて親に「見て!」と指さす [1] |
| 第4段階 | 応答の指さし | 14〜18ヶ月 | 質問に答える指さし | 「ワンワンはどれ?」と聞かれて正しく指さす [2] |
「特に重要なのは第3段階の「叙述の指さし」です [1][3]。これは"欲しいから指さす"のではなく、"面白いから誰かと共有したい"という気持ちの表れです。自分の体験を他者と分かち合いたいという欲求、これは人間に特有のコミュニケーション能力の芽生えであり、言葉の発達の重要な前段階です [3]。」
指さしの発達チェック:
| 月齢 | 確認ポイント |
|---|---|
| 9ヶ月 | 興味のあるものに手を伸ばす [1] |
| 10〜12ヶ月 | 欲しいものを指さして親を見る [2] |
| 12〜14ヶ月 | 「あれ見て!」と面白いものを指さして親を見る [1] |
| 14〜18ヶ月 | 「〇〇はどれ?」の質問に指さしで答える [2] |
ポイント
- 指さしには 4つの段階 がある(興味→要求→叙述→応答)[1][2]
- 叙述の指さし(「あれ見て!」)が最も重要。共有したい気持ちの表れ [1][3]
- 指さしは 言葉の前の言葉。言語発達の重要な前段階 [3]
Q2.「共同注意とは何ですか?」
——"共同注意"という言葉を聞いたことがあります。指さしとどう関係するのですか?
共同注意(joint attention)とは、自分と他者が同じものに一緒に注意を向けることです。これを理解するには、"三項関係"という概念がポイントになります [3][4]。
二項関係と三項関係:
| 関係 | 説明 | 例 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 二項関係 | 自分と対象、または自分と人の2者間 | 赤ちゃんがおもちゃを見る / ママを見る | 0〜8ヶ月 [4] |
| 三項関係 | 自分・他者・対象の3者間で注意を共有 | 赤ちゃんが犬を指さし、ママを振り返って笑う | 9〜12ヶ月〜 [3] |
「三項関係が成立するためには、赤ちゃんが"自分が見ているもの"を"相手も見ている"と理解することが必要です [3]。これは非常に高度な認知能力です。」
共同注意の2つの方向:
説明
- 応答的共同注意(RJA)
- 他者が注意を向けたものに自分も注意を向ける
- 始発的共同注意(IJA)
- 自分から他者の注意を引きつける
例
- 応答的共同注意(RJA)
- ママが「あれ見て」と指さす方向を見る [4]
- 始発的共同注意(IJA)
- 赤ちゃんが犬を指さして「あっ」とママを見る [4]
「始発的共同注意(IJA)がより重要です [4][5]。これは"自分から他者と何かを共有しようとする意欲"の表れであり、言葉を使ったコミュニケーションの原型です。指さしは、この始発的共同注意の最も典型的な行動なのです。」
共同注意が言語発達に不可欠な理由 [3][5]:
- 2言葉の学習場面を作る: ママが「ワンワンだね」と言う時、赤ちゃんと同じ犬を見ていることで、「ワンワン」=犬という結びつきが学べる
- 4コミュニケーション意欲の基盤: 「伝えたい」気持ちが言葉を生む
- 6社会的参照: 新しいものに出会った時、ママの表情を見て安全かどうかを判断する
ポイント
- 共同注意は 自分・他者・対象の三項関係 [3]
- 始発的共同注意(自分から共有しようとする力)がより重要 [4][5]
- 共同注意は 言葉を学ぶための土台 [3][5]
Q3.「共同注意はいつ頃から発達するのですか?」
——何ヶ月頃から共同注意ができるようになるんですか?
共同注意は9〜12ヶ月頃から発達し始めますが、その前段階から準備が進んでいます [3][4]。
共同注意の発達タイムライン:
発達段階
- 2〜3ヶ月
- 社会的微笑
- 4〜6ヶ月
- 二者間のやりとり
- 6〜8ヶ月
- 視線追従の始まり
- 9〜10ヶ月
- 共同注意の芽生え
- 10〜12ヶ月
- 始発的共同注意の出現
- 12〜14ヶ月
- 叙述の指さし
- 14〜18ヶ月
- 応答の指さし
- 18ヶ月〜
- 共同注意が安定
行動の例
- 2〜3ヶ月
- 人の顔を見て笑う [6]
- 4〜6ヶ月
- ママとの"あーうー"のやりとり [6]
- 6〜8ヶ月
- ママが見ている方向を何となく見る [4]
- 9〜10ヶ月
- ママの指さす方向を見る(応答的共同注意)[4]
- 10〜12ヶ月
- 自分から指さして親を見る [3]
- 12〜14ヶ月
- 「あれ見て!」の共有 [1]
- 14〜18ヶ月
- 「〇〇はどれ?」に答える [2]
- 18ヶ月〜
- さまざまな場面で自然に行う [3]
共同注意の発達を確認するチェックリスト:
| 月齢 | チェック項目 |
|---|---|
| 9ヶ月 | 大人が見ている方向を何となく見る |
| 10ヶ月 | 大人が指さした方を見る |
| 12ヶ月 | 興味のあるものを指さして大人を振り返る |
| 14ヶ月 | 面白いもの・驚いたものを大人に見せようとする |
| 18ヶ月 | 「〇〇はどれ?」と聞かれて指さしで答える |
ポイント
- 共同注意は 9〜12ヶ月頃から発達 [3][4]
- その前段階として社会的微笑・二者間のやりとりがある [6]
- 12ヶ月頃に叙述の指さしが出現するのが目安 [1]
Q4.「共同注意の欠如がASDの早期サインになるのはなぜですか?」
——指さしをしないと自閉スペクトラム症(ASD)かもしれないと聞きました。なぜですか?
これは非常に重要なご質問です。まず強調したいのは、"指さしをしない=ASD"ではないということです [7]。ただし、共同注意の欠如がASDの早期サインの一つであることは、多くの研究で示されています [5][7][8]。
なぜ共同注意がASDと関連するのか [5][7]:
「ASDの中核的な特徴は、社会的コミュニケーションと対人的相互反応の困難です [9]。共同注意は、まさにこの社会的コミュニケーションの最も初期の形です。共同注意が育ちにくいと、以下のような影響が出ます。」
ASDで見られる困難
- 視線追従
- 他者の視線の方向を追いにくい
- 指さしの理解
- 指さされた方向を見にくい
- 叙述の指さし
- 「あれ見て!」の共有が少ない
- 社会的参照
- 新しい状況でママの表情を確認しにくい
影響
- 視線追従
- 社会的情報の取り込みが減る [5]
- 指さしの理解
- 言葉と物の結びつきが学びにくい [7]
- 叙述の指さし
- 社会的動機づけの弱さ [5]
- 社会的参照
- 社会的学習の機会が減る [8]
ASDの早期サインとして注目される行動 [7][8]:
| 月齢 | 注意すべきサイン |
|---|---|
| 6ヶ月 | 社会的微笑が少ない [8] |
| 9ヶ月 | 声や表情のやりとりが少ない [7] |
| 12ヶ月 | 指さしが出ない。名前を呼んでも振り向かない [7] |
| 14ヶ月 | 興味のあるものを見せに来ない。共有の行動が少ない [8] |
| 16ヶ月 | 有意語がない [7] |
| 18ヶ月 | 見立て遊び(ごっこ遊び)がない [8] |
| どの月齢でも | 以前あった言葉やスキルが消えた(退行) [7] |
重要な注意点:
「上記のサインが一つあるだけでASDと判断することはできません [7]。ASDの診断には、複数の領域にわたる特徴が持続的に見られることが必要です [9]。指さしが遅い子でも、その後共同注意が発達し、定型発達の経過をたどるケースは多くあります。」
「ただし、複数のサインが重なる場合や、1歳半を過ぎても叙述の指さしが全く出ない場合は、専門家への相談をお勧めします [7]。早期に気づくことは、早期支援の開始につながり、お子さんの発達を助けることが示されています [10]。」
ポイント
- "指さしをしない=ASD"ではない [7]
- ただし共同注意の欠如はASDの早期サインの一つ [5][7]
- 複数のサインが重なる場合に注意。1つだけでは判断できない [7][9]
- 早期発見は 早期支援につながる [10]
Q5.「1歳半健診で指さしを確認するのはなぜですか?」
——1歳半健診で"指さししますか?"と聞かれますが、なぜそんなに重要なんですか?
1歳半健診で指さしを確認する理由は、指さしが言語発達・社会性発達・認知発達の交差点にあるからです [2][7][11]。
1歳半健診で確認される指さし関連項目 [11]:
| チェック項目 | 確認の意図 |
|---|---|
| 自発的に指さしをするか | 始発的共同注意の発達 [1] |
| 大人の指さした方を見るか | 応答的共同注意の発達 [4] |
| 「〇〇はどれ?」に指さしで答えるか | 理解語彙+応答の指さし [2] |
| 絵本の絵を指差すか | 興味の共有+認知発達 [11] |
指さしが重要な理由、3つの発達領域の指標:
| 発達領域 | 指さしが反映する力 |
|---|---|
| 言語発達 | 理解語彙の広がり、言葉の前段階としてのコミュニケーション [1][3] |
| 社会性発達 | 他者と経験を共有したい気持ち、共同注意 [5] |
| 認知発達 | 対象の認識、象徴機能の芽生え(指で物を"代表"させる)[2] |
つまり、指さしという一つの行動を見ることで、言葉・社会性・認知の3つの発達領域を同時にチェックできるのです [2]。これが1歳半健診で指さしが重視される最大の理由です。
「ただし、健診の場で緊張して指さしをしないお子さんもいます [11]。普段の家庭での様子が最も重要です。健診の場で出なくても、家では自然に指さしをしているなら、心配は少ないです。」
ポイント
- 指さしは 言語・社会性・認知の3領域の交差点 [2]
- 1歳半健診では 一つの行動で3つの発達をチェック できる [11]
- 健診で出なくても 家での様子が大切。普段しているなら心配少ない [11]
Q6.「指さしが出ない場合、家庭でできることはありますか?」
——1歳を過ぎたのに、まだ指さしをあまりしません。家でできることはありますか?
共同注意と指さしの発達を促す遊び方があります [3][12]。日常の中で自然に取り入れてみてください。
共同注意を促す関わり方:
やり方
- 一緒に見る
- 子どもが見ているものを一緒に見て、「ワンワンだね」と声をかける
- 大人が指さしのモデルを見せる
- 散歩中に「あ、ちょうちょだよ!」と指さして見せる
- 反応を大きく返す
- 子どもが何かを見て声を出したら、大きく反応する(「ほんとだ!すごいね!」)
- 絵本で指さし遊び
- 「ワンワンはどーこだ?」と聞いて、見つけたら一緒に喜ぶ
- シャボン玉・風船
- 動くものを一緒に目で追う遊び
- いないいないばあ
- 予測と共有の楽しさ
ねらい
- 一緒に見る
- 三項関係の経験を増やす [3]
- 大人が指さしのモデルを見せる
- 指さしの模倣を促す [12]
- 反応を大きく返す
- 共有する喜びを強化する [3]
- 絵本で指さし遊び
- 応答の指さしを促す [12]
- シャボン玉・風船
- 視線共有・共同注意の基礎 [12]
- いないいないばあ
- 二者間のやりとりの基盤強化 [6]
「教え込む」のではなく「一緒に楽しむ」:
「指さしは教え込むものではなく、コミュニケーションの楽しさの中から自然に生まれるものです [3]。"指さしの練習"と構えるのではなく、お子さんが今興味を持っているものに一緒に注目し、反応を返すことが最も効果的です。」
受診の目安:
- 12ヶ月を過ぎても指さしがまったくない [7]
- 14ヶ月を過ぎても他者に物を見せに来ない [8]
- 18ヶ月を過ぎても叙述の指さし(「あれ見て!」)が出ない [7]
- 名前を呼んでも振り向かない [7]
- 目が合いにくい [8]
- 以前あった指さしやスキルが消えた [7]
「1つでも気になるサインがあれば、かかりつけの小児科や1歳半健診で相談してください [7]。繰り返しになりますが、指さしが遅い=ASDではありません。ただ、気になることがあれば早めに相談することは、お子さんのためになります。」
ポイント
- 「教え込む」のではなく「一緒に楽しむ」ことが大切 [3]
- 子どもの関心に合わせて 一緒に見る・反応する [3][12]
- 12ヶ月で指さしゼロ、18ヶ月で叙述の指さしなし → 相談を [7]
今号のまとめ
- 指さしには4つの段階があり、「言葉の前の言葉」として非常に重要です
- 共同注意(三項関係)は社会性と言語発達の土台。9〜12ヶ月頃から発達します
- 叙述の指さし(「あれ見て!」)は、他者と経験を共有したい気持ちの表れです
- 1歳半健診で指さしを確認するのは、言語・社会性・認知の3領域を同時にチェックできるから
- 指さしが出ない=ASDではありません。ただし、複数のサインが重なる場合は相談を
- 家庭では「教え込む」のではなく「一緒に楽しむ」関わりが最も効果的です
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- Vol.122「言葉の発達のマイルストーン」
- Vol.73「うちの子、言葉が遅い?」
- Vol.33「逆さバイバイは大丈夫?」
- Vol.97「健診で要経過観察と言われたら」
ご質問・ご感想
「指さしの種類を初めて知りました」「共同注意の意味がわかってすっきりしました」など、ご感想やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。
愛育病院 小児科 おかもん先生
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