愛育病院 小児科おかもん だより Vol.49
おたふく風邪の合併症、難聴・髄膜炎・精巣炎への対応
今号のポイント
- 2おたふく風邪の合併症は、軽症から重症まで幅広い
- 4難聴は突然発症し、治療法がない。早期発見が重要
- 6無菌性髄膜炎は自然に治るが、精巣炎は不妊のリスクがある
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「おたふく風邪になって、急に耳が聞こえにくくなりました……」、おたふく風邪の最も恐ろしい合併症がムンプス難聴です。また、頭痛・嘔吐が強い(髄膜炎)、思春期以降の男性で睾丸が腫れて痛い(精巣炎)なども、おたふく風邪の合併症として知られています [1]。
今回は、おたふく風邪の合併症の症状・診断・治療 についてお伝えします。
Q1.「おたふく風邪の合併症にはどんなものがありますか?」
——おたふく風邪になると、どんな合併症が起こるんですか?
おたふく風邪(ムンプス)の合併症は、軽症のものから重症のものまで様々です [1]。頻度と重症度をまとめます
おたふく風邪の主な合併症:
| 合併症 | 頻度 | 重症度 | 後遺症 |
|---|---|---|---|
| 無菌性髄膜炎 | 約10% [2] | 中等度 | ほぼなし |
| 難聴 | 約0.1%(1,000人に1人) [3] | 重度 | 永久的 [3] |
| 精巣炎 | 思春期以降の男性の20〜30% [4] | 中等度 | 不妊のリスク(まれ) |
| 卵巣炎 | 思春期以降の女性の約5% [4] | 軽〜中等度 | 不妊のリスク(非常にまれ) |
| 膵炎 | 約4% [5] | 軽〜中等度 | ほぼなし |
| 脳炎 | 0.02〜0.3% [6] | 重度 | けいれん、意識障害 |
これらの合併症の中で、最も頻度が高いのは無菌性髄膜炎(約10%)、最も深刻なのは難聴(治療法なし)です [2][3]。それぞれについて詳しく説明します
ポイント
- おたふく風邪の合併症は 軽症から重症まで様々 [1]
- 最も頻度が高い: 無菌性髄膜炎(約10%) [2]
- 最も深刻: 難聴(0.1%、治療法なし) [3]
- 思春期以降の男性: 精巣炎(20〜30%) [4]
Q2.「ムンプス難聴について教えてください」
——おたふく風邪で耳が聞こえなくなることがあるんですか?
はい。おたふく風邪による難聴(ムンプス難聴)は、約1,000人に1人の頻度で起こります [3]。最も恐ろしい合併症です
ムンプス難聴の特徴:
発症頻度と時期
- 頻度: 約0.1%(1,000人に1人) [3]
- 発症時期: 耳下腺が腫れてから数日以内(多くは3〜7日目)
- 年齢: 5歳以上に多い [7]
難聴の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 左右差 | 片側性が80%、両側性が20% [7] |
| 程度 | 高度〜重度の感音性難聴(60〜100dB以上) [7] |
| 発症様式 | 突然発症(朝起きたら聞こえない、など) |
| 随伴症状 | めまい(約30%)、耳鳴り(約20%) [8] |
| 治療 | 有効な治療法はない [3] |
| 予後 | ほぼ回復しない(永久的な難聴) [3] |
ムンプス難聴の症状に気づく方法を知っておくことが大切です
ムンプス難聴を疑うサイン:
乳幼児(本人が訴えられない場合)
- 呼びかけに反応しない
- 音の出るおもちゃに反応しない
- テレビの音量を上げる
- 片方の耳を向けて聞こうとする
学童以降(本人が訴えられる場合)
- 「耳が聞こえにくい」と訴える
- 片方の耳が聞こえない
- 耳鳴りがする
- めまいがする
もしおたふく風邪の最中や治った後に、これらのサインがあれば、すぐに耳鼻科を受診してください [8]。ただし、有効な治療法はないのが現実です [3]。ステロイド薬を試みることもありますが、効果はほとんど期待できません [9]
日本耳鼻咽喉科学会の全国調査(2015〜2016年):
- 2年間で 348人がムンプス難聴を発症 [10]
- つまり、年間約700〜800人が発症している計算
- そのうち300人(86%)が片側性、48人(14%)が両側性 [10]
つまり、毎年700〜800人の子どもが、治らない難聴になっている計算です [10]。ワクチンで防げるはずのものです(詳しくはVol.048参照)
ポイント
- ムンプス難聴は 約1,000人に1人の頻度 [3]
- 突然発症し、片側性が多い(80%) [7]
- 有効な治療法はなく、ほぼ回復しない [3]
- 日本では 年間約700〜800人が発症 [10]
- 予防(ワクチン)が唯一の対策 [10]
Q3.「無菌性髄膜炎について教えてください」
——おたふく風邪になって、頭痛と嘔吐がひどいんです。髄膜炎でしょうか?
おたふく風邪の合併症で最も頻度が高いのが無菌性髄膜炎です [2]。約10%の患者に起こります
無菌性髄膜炎の特徴:
発症頻度と時期
- 頻度: 約10%(10人に1人) [2]
- 発症時期: 耳下腺が腫れてから3〜10日後が多い
- 男児に多い(男:女 = 3:1) [11]
症状
頻度
- 頭痛
- ほぼ100%
- 嘔吐
- 約80% [11]
- 発熱
- 約60%
- 項部硬直
- 約50% [11]
- けいれん
- まれ
特徴
- 頭痛
- 強い頭痛
- 嘔吐
- 繰り返す嘔吐
- 発熱
- 38〜39℃
- 項部硬直
- 首を前に曲げると痛い
- けいれん
- 重症例のみ
診断は、髄液検査(腰椎穿刺)で行います [12]
髄液検査の所見:
| 項目 | 無菌性髄膜炎の所見 |
|---|---|
| 細胞数 | 増加(100〜500/μL、リンパ球主体) |
| 蛋白 | 軽度増加 |
| 糖 | 正常 |
| 細菌培養 | 陰性(細菌はいない) |
「無菌性」というのは、細菌が出ないという意味です [12]。ウイルス(ムンプス)による髄膜炎なので、抗生物質は効きません
無菌性髄膜炎の治療:
治療方針
- 対症療法が中心 [13]
- 特効薬はない
- ほとんどは 1〜2週間で自然に治る [13]
具体的な治療
- 輸液: 脱水を防ぐ
- 解熱鎮痛薬: 頭痛・発熱に対してアセトアミノフェン
- 安静: 入院して様子を見る
無菌性髄膜炎は、細菌性髄膜炎とは違い、後遺症はほとんどありません [13]。ただし、入院治療が必要で、お子さんも保護者も辛い1〜2週間を過ごすことになります
細菌性髄膜炎との鑑別:
無菌性髄膜炎
- 原因
- ウイルス(ムンプスなど)
- 重症度
- 軽〜中等度
- 治療
- 対症療法
- 予後
- ほぼ良好
細菌性髄膜炎
- 原因
- 細菌(肺炎球菌など)
- 重症度
- 重症
- 治療
- 抗生物質
- 予後
- 後遺症・死亡のリスク
ポイント
- 無菌性髄膜炎は 約10%の頻度 [2]
- 症状: 頭痛、嘔吐、発熱 [11]
- 診断は 髄液検査で行う [12]
- 対症療法のみ、1〜2週間で自然に治る [13]
- 後遺症は ほとんどない [13]
Q4.「精巣炎・卵巣炎について教えてください」
——おたふく風邪で男性不妊になると聞きました。本当ですか?
思春期以降の男性がおたふく風邪にかかると、約20〜30%で精巣炎(睾丸の炎症)が起こります [4]。ただし、不妊になるのはまれです [14]
精巣炎の特徴:
発症頻度と時期
- 頻度: 思春期以降の男性の20〜30% [4]
- 発症時期: 耳下腺が腫れてから4〜8日後
- 思春期前の男児ではまれ(約2%) [15]
症状
| 症状 | 特徴 |
|---|---|
| 睾丸の腫れ | 片側(約70%)または両側(約30%) [4] |
| 痛み | 強い痛み |
| 発赤・熱感 | 陰嚢が赤く熱を持つ |
| 発熱 | 38〜39℃ |
精巣炎の診断は、症状と身体診察で行います [16]。超音波検査で精巣の腫れを確認することもあります
精巣炎の治療:
治療方針
- 対症療法が中心 [16]
- 特効薬はない
具体的な治療
- 安静・冷却: 陰嚢を冷やす、サポーターで固定
- 鎮痛薬: アセトアミノフェンやNSAIDs
- ステロイド薬: 重症例では検討(効果は限定的) [17]
精巣炎と不妊の関係:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 片側性精巣炎 | 不妊のリスクはほとんどない [14] |
| 両側性精巣炎 | 不妊のリスクあり(約10〜30%) [14] |
| 精巣萎縮 | 約30〜50%で起こる [18] |
両側性の精巣炎でも、ほとんど(70〜90%)の方は正常な生殖能力を保ちます [14]。ただしゼロリスクではないので、ワクチンで防ぐのが安全です(Vol.048参照)
卵巣炎の特徴:
- 頻度: 思春期以降の女性の約5% [4]
- 症状: 下腹部痛、発熱
- 不妊: 非常にまれ [19]
ポイント
- 精巣炎は思春期以降の男性の 20〜30%に発症 [4]
- 片側性が多い(約70%) [4]
- 両側性でも、70〜90%は正常な生殖能力 [14]
- 治療は 対症療法(安静、冷却、鎮痛薬) [16]
- 予防(ワクチン)が重要 [4]
Q5.「おたふく風邪の合併症を予防するにはどうすればいいですか?」
——合併症が怖いです。予防する方法はありますか?
おたふく風邪の合併症を予防する最も確実な方法は、ワクチン接種です [20]
ワクチンによる合併症予防効果:
自然感染での頻度
- 難聴
- 0.1%(1,000人に1人) [3]
- 無菌性髄膜炎
- 約10% [2]
- 精巣炎
- 20〜30%(思春期以降の男性) [4]
ワクチン接種での予防効果
- 難聴
- ほぼ完全に予防 [21]
- 無菌性髄膜炎
- 大幅に減少 [22]
- 精巣炎
- 約90%予防 [20]
つまり、ワクチン接種が唯一の効果的な予防法です [20]。特に、難聴は治療法がないため、ワクチンで予防することが極めて重要です [3]
ワクチン接種の推奨:
- 1歳と小学校入学前の2回接種 [23]
- 詳しくはVol.048を参照
既におたふく風邪にかかってしまった場合の対応:
合併症の早期発見
- 難聴: 聞こえにくい、耳鳴り、めまい → すぐに耳鼻科受診 [8]
- 髄膜炎: 強い頭痛、嘔吐、首の硬さ → すぐに小児科受診 [12]
- 精巣炎: 睾丸の腫れ・痛み → すぐに小児科または泌尿器科受診 [16]
ホームケア
- 安静: 無理をせず休む
- 水分補給: 脱水を防ぐ
- 栄養: 食べられるものを食べる(酸っぱいものは避ける)
- 経過観察: 合併症のサインに注意
おたふく風邪にかかった後の経過観察:
| 時期 | 注意点 |
|---|---|
| 発症〜7日 | 難聴、髄膜炎のサインに注意 [7][11] |
| 7〜14日 | 精巣炎、膵炎のサインに注意 [4][5] |
| 2週間以降 | 難聴の確認(聴力検査を検討) [8] |
特に、難聴は片側性が多く、本人も気づきにくいことがあります [7]。おたふく風邪が治った後に、聴力検査を受けることをお勧めします [8]
ポイント
- 合併症予防の 最も確実な方法はワクチン接種 [20]
- ワクチンで 難聴はほぼ完全に予防可能 [21]
- 既にかかった場合: 合併症のサインに注意 [7][11][4]
- 治った後も 聴力検査を検討 [8]
まとめ
- おたふく風邪の合併症は、無菌性髄膜炎(10%)が最多
- 難聴(0.1%)は治療法がなく、最も深刻
- 無菌性髄膜炎は 1〜2週間で自然に治る
- 精巣炎は思春期以降の男性の 20〜30%に発症するが、不妊はまれ
- ワクチン接種が唯一の効果的な予防法
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