愛育病院 小児科おかもん だより Vol.1
「うちの子インフルかも?」、受診のタイミング、検査の落とし穴、家での過ごし方
今号のポイント
- 2インフルエンザの検査は発熱から12〜48時間が「ゴールデンタイム」。夜間発熱でも翌朝受診でOK
- 4迅速検査が陰性でもインフルエンザは否定できない、特にB型は感染者の半数近くが見逃される可能性
- 6子どもではB型の重症化リスクがA型より高い可能性があり、「B型=軽い」は危険な思い込み
こんにちは。2026年4月から愛育病院小児科に着任しました、おかもん先生です。 このたび、保護者のみなさまに「知っていると安心できる」医療情報をお届けするおたよりを始めることにしました。
すべての内容は医学論文などのエビデンス(科学的根拠)に基づいて執筆しています。記事の最後に参考文献をまとめていますので、より詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
第1号のテーマは、今シーズンも猛威をふるったインフルエンザです。
外来でよくいただく質問を中心に、Q&A形式でお伝えします。
Q1.「熱が出ました。すぐ病院に行ったほうがいいですか?」
——昨日の夜から38.5℃の熱が出て、ぐったりしています。インフルエンザが学校で流行っているので、朝イチで検査してもらおうと思うのですが……
ご心配ですよね。ただ、インフルエンザの迅速検査には受けるのに適したタイミングがあります。発熱してすぐだとウイルス量がまだ少なく、感染していても『陰性』と出てしまうことがあります
——えっ、陰性でもインフルエンザの可能性があるんですか?
はい。迅速検査(迅速抗原検査:RIDT)の総合的な感度(「本当に陽性の人を正しく陽性と判定する精度」)は62.3%と報告されています [1]。つまり、本当にインフルエンザにかかっていても、約4割は『陰性』と出てしまう計算です。一般的に、発熱から12時間以上経ってから検査するほうがウイルス量が増えて正確な結果が出やすいとされています [2]。一方で、抗インフルエンザ薬(オセルタミビルなど)は発症から48時間以内に使い始めることで効果が高まります [3]。つまり『早すぎず、遅すぎず』がポイントなんですね
——じゃあ、夜に熱が出たら翌朝の受診がちょうどいいくらいですか?
そうですね。夜間に熱が出ても、水分が摂れていて、呼びかけに反応があり、呼吸が苦しそうでなければ、翌朝の日中に受診していただくのがちょうどよいタイミングです。CDCのガイダンスでも、重症化リスクの高い患者さん以外は、外来での評価が推奨されています [2]。夜間救急は重症のお子さんのために確保しておきたいという面もありますので、ご協力いただけるとありがたいです
ポイント
- 発熱から12時間〜48時間が検査・治療の「ゴールデンタイム」 [1][2][3]
- 夜に発熱 → 水分が摂れていれば翌朝受診でOK
Q2.「検査で陰性でした。安心していいですか?」
——検査したら陰性だったんです。でも周りでインフルエンザがすごく流行っていて……本当に違うんでしょうか
実は、先ほどお話しした迅速検査の精度について、もう少し詳しくお伝えしますね。159件の研究を統合したメタアナリシス(複数の研究を統合した大規模な解析)によると、迅速検査の総合感度は62.3%、特異度(「本当に陰性の人を正しく陰性と判定する精度」)は98.2%です [1]。特異度が非常に高いということは、陽性が出たらほぼ確実にインフルエンザと言えます。問題は感度のほうです
——感度が低いということは……?
はい。しかもA型とB型で感度に差があるんです。同じ解析で、A型の感度は64.6%だったのに対し、B型は52.2%でした [1]。つまりB型に感染しているお子さんのほぼ半数が『陰性』と判定されてしまう可能性があります。さらに、小児の感度は66.6%ですが、成人では53.9%とさらに低くなります [1]
——半分も……! じゃあ陰性でも油断できないんですね
おっしゃる通りです。CDCの2026年版ガイダンスでも、RIDTの偽陰性(本当は陽性なのに陰性と出てしまうこと)は『よく起こる(commonly occur)』と明記されています [2]。私たち小児科医は、検査結果だけでなく、周囲の流行状況、お子さんの症状、発症からの時間を総合的に判断しています。重症化リスクの高いお子さんでは、検査結果を待たずに治療開始を検討することもCDCは推奨しています [2]
ポイント
- 迅速検査は「陽性なら確定的」だが「陰性でも否定できない」[1]
- 特にB型は感度約52%、感染者の半数近くが見逃される可能性 [1]
- 周囲で流行 + 典型的な症状 → 陰性でも医師に相談を [2]
Q3.「A型とB型、どっちが怖いですか?」
——ママ友から『B型は軽いから大丈夫よ』と言われたんですが、本当ですか?
外来で本当によくいただく質問です。まず、適切なタイミングで受診・治療すれば、ほとんどのお子さんは元気に回復します。そのうえで、子どもに関しては『B型は軽い』と言い切れない、ここは知っておいていただきたいところです。フランスのプライマリ・ケア(かかりつけ医による一般外来診療)で10シーズン・14,000例超を解析した研究では、A型とB型の症状の頻度差はほとんどが10%未満で、外来の診察だけで型を見分けるのは難しいと報告されています [4]
——見分けがつかないんですね。でも重症度には差があるんですか?
ここが重要なポイントです。大人と子どもで傾向が逆転する可能性があるんです。大人の入院データでは、A型のほうが39℃以上の高熱(A型41.5% vs B型27.6%)や肺炎の合併が多い傾向が報告されています [5][6]。ところが、韓国の三次医療機関(大学病院などの高度専門病院)で小児809例を解析した研究では、39℃超の発熱がA型35.4%に対してB型44.0%と逆転し、下痢や嘔吐もB型に多いという結果が出ているんです [7]
——子どもでは逆なんですね……知りませんでした
さらに深刻なデータがあります。カナダの小児12病院が参加した大規模調査では、入院したお子さんのインフルエンザに直接起因する死亡率がB型1.1%、A型0.4%で、年齢や基礎疾患を調整した後の死亡リスクはB型でA型の2.65倍に達していました [8]。また2019-2020シーズンの米国CDCの報告では、インフルエンザ関連の小児死亡199例のうち、約3分の2にあたる122例がB型に関連していたのです [9]
——3分の2がB型……!
ただし、これは適切に対応すれば防げるリスクです。怖いデータに聞こえるかもしれませんが、早めの受診と適切な治療で、ほとんどのお子さんはしっかり回復しています。この背景には『治療のギャップ』と呼ばれる問題があります。フランスのプライマリ・ケアにおけるサーベイランスでは、A型患者に比べてB型患者では抗ウイルス薬の処方率が低い傾向が報告されています [4][15]。『B型だから軽いだろう』という先入観が、治療開始の遅れにつながっている可能性があるんです。型に関わらず、お子さんの様子をしっかり観察することが何より大切です
ポイント
- 大人ではA型が重症化しやすい傾向だが、子どもではB型で高熱・重症化リスクが高い可能性 [5][6][7][8]
- B型の小児死亡リスクはA型の2.65倍というデータも [8]
- 「B型=軽い」という思い込みが治療の遅れにつながる [4]
Q4.「熱が下がったのに足が痛いと言っています。大丈夫ですか?」
——インフルエンザの熱が下がってホッとしていたら、急に『足が痛い!歩けない!』と泣き出しました。何か怖い病気でしょうか……
ご心配ですよね。これは『良性急性小児筋炎(BACM: Benign Acute Childhood Myositis)』と呼ばれる状態で、インフルエンザ、特にB型の回復期に起こることがあります。ふくらはぎを中心に痛みが出て、歩けなくなったり、つま先立ちでしか移動できなくなったりします
——どのくらいの頻度で起こるんですか?
2025年にギリシャで報告された多施設研究では、入院した小児インフルエンザ113例のうち、実に32.7%がBACMを発症していました。そしてBACM群の70.3%がインフルエンザB型だったのです [10]。サウジアラビアの三次小児病院でも2016〜2022年にBACM 392例が集められ、ウイルス陽性83例のうち75.9%がB型でした [11]。さらに2007-2008年のドイツでのB型大流行時には219例のBACMが全国的に同定され、年齢の中央値は7歳、男児が74%を占めていました [12]
——良性……ということは、危険ではないんですか?
はい。名前に『良性』とついている通り、ほとんどのケースで1週間以内に自然に回復します。ギリシャの研究では集中治療室に入った症例はゼロでした [10]。ドイツの219例でも腎機能障害はごく軽微な1例のみで、大多数が自然に治っています [12]。血液検査ではCK(クレアチンキナーゼ:筋肉が壊れたときに出る酵素)が正常値の十数倍に上昇しますが、中央値で7日後には正常化し、横紋筋融解症(筋肉が広範囲に壊れる重篤な状態)が起きたのは全体の1%未満です [11]。ただし、おしっこの色が茶色や赤っぽくなった場合は腎臓への負担のサインですので、すぐに受診してください
——事前に知っていれば安心ですね。発熱から何日くらいで起こるんですか?
ドイツの大規模報告では、発熱から筋炎症状が出るまでの中央値は3日、症状の持続は中央値4日とされています [12]。B型の流行期には、『お熱が下がった後にふくらはぎを痛がることがあるかもしれません。ほとんどは1週間以内に自然に治りますが、おしっこの色が茶色くなったら念のため受診してください』、この一言をお伝えしておくだけで、いざという時の安心感がまるで違うと思います
ポイント
- 回復期の足の痛み=「良性急性小児筋炎(BACM)」の可能性。BACM群の70〜76%がB型 [10][11]
- 発熱から約3日後に発症、ほとんどが1週間以内に自然回復 [12]
- おしっこの色が茶色・赤色 → すぐ受診(横紋筋融解症のサイン)[11]
Q5.「家族がうつらないようにするには?」
——下の子がまだ赤ちゃんなんです。家庭内でできる感染対策を教えてください
インフルエンザの主な感染経路は飛沫感染と接触感染です [13]。完璧に防ぐのは難しいですが、リスクを下げるためにエビデンスに基づいてできることがあります
- 2手洗いの徹底 、 お世話の前後に石けんで手を洗ってください。アルコール消毒も有効です。手指衛生は接触感染予防の基本ですが、メタアナリシスでは手洗い単独よりもマスクとの併用でより確かな効果が確認されています [14]
- 4マスクの着用 、 手指衛生と組み合わせることでインフルエンザの感染リスクを有意に低減するというエビデンスがあります [14]。看病する方がマスクをつけると効果的です
- 6部屋を分ける 、 可能であれば、回復するまでお子さんの過ごす部屋を分けましょう
- 8換気をこまめに 、 1〜2時間に1回、5〜10分程度の換気が目安です
- 10タオル・コップは別々に 、 接触感染を防ぐため、共有するものを減らしましょう
——お世話しているとどうしても近くにいることになりますよね……
はい、特に小さいお子さんの看病は密着せざるを得ないですよね。すべて完璧にする必要はありません。できることをできる範囲で、が大切です。なお、インフルエンザワクチンについては、6か月以上のすべてのお子さんに毎シーズンの接種が推奨されています [3]。家庭内感染対策と併せて、次のシーズンに備えてワクチン接種もぜひご検討ください
ポイント
- 手洗い+マスクの組み合わせが家庭内感染予防に有効 [14]
- 6か月以上の全小児にワクチン接種が推奨 [3]
今号のまとめ
- 検査のベストタイミングは発熱から12時間〜48時間。夜間発熱でも、状態が落ち着いていれば翌朝受診で大丈夫です [1][2]
- 迅速検査が陰性でもインフルエンザは否定できません。特にB型は感度約52%で、感染者の半数近くが見逃される可能性があります [1][2]
- 「B型は軽い」は子どもには当てはまらない可能性があります。小児のB型死亡リスクはA型の2.65倍というデータもあり、型にとらわれず、お子さんの状態を観察してください [7][8]
- 回復期の足の痛みは良性急性小児筋炎(BACM)かもしれません。ほとんどが自然に治りますが、尿の色の変化には注意を [10][11][12]
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