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インフルエンザの薬と「異常行動」の真実
Vol.2感染症

インフルエンザの薬と「異常行動」の真実

タミフルと異常行動の真実、ゾフルーザの耐性問題、48時間ルールの柔軟性を解説

感染症全年齢19
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 13·Q&A 5問収録

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この記事のポイント

  • 異常行動の原因はタミフルではなくインフルエンザそのもの。どの薬でも、薬なしでも起こりうる
  • ゾフルーザは1回内服で便利だが、特に小児では耐性ウイルスが出やすい点に注意
  • 抗インフルエンザ薬は48時間以内の開始が最も効果的だが、重症例では48時間を過ぎても投与の意義あり

愛育病院 小児科おかもん だより Vol.2

インフルエンザの薬と「異常行動」の真実

タミフル・ゾフルーザ・イナビル、どう違う?本当に怖いのは薬ではなく○○

今号のポイント

  1. 2
    異常行動の原因はタミフルではなくインフルエンザそのもの。どの薬でも、薬なしでも起こりうる
  2. 4
    ゾフルーザは1回内服で便利だが、特に小児では耐性ウイルスが出やすい点に注意
  3. 6
    抗インフルエンザ薬は48時間以内の開始が最も効果的だが、重症例では48時間を過ぎても投与の意義あり

こんにちは、おかもん先生です。

インフルエンザの季節になると、「タミフルって飲ませても大丈夫ですか?」「異常行動が怖くて…」というご相談をたくさんいただきます。また最近は「ゾフルーザ」「イナビル」など新しい薬も増え、「結局どれがいいの?」と迷われる方も多いのではないでしょうか。

今回は、インフルエンザの治療薬について、最新のエビデンスをもとにお話しします。

Q1. タミフル、ゾフルーザ、イナビル…種類が多くてわかりません。どう違うのですか?

お母さん: 「インフルエンザの薬にはいろいろあるみたいですが、何が違うのですか?子どもに処方される薬はどれになりますか?」

おかもん先生: よいご質問ですね。現在、日本で子どもに使われる主なインフルエンザ治療薬は4つあります。大きく分けると2つのグループに分かれます。

まずノイラミニダーゼ阻害薬(ノイラミニダーゼという酵素の働きを抑えるお薬)というグループがあります。これはインフルエンザウイルスが感染した細胞から「出ていく」のを邪魔するお薬です [1]。

薬剤名(商品名)投与経路投与回数対象年齢作用機序
オセルタミビル(タミフル)内服1日2回 x 5日間生後14日以上ノイラミニダーゼ阻害
ザナミビル(リレンザ)吸入1日2回 x 5日間7歳以上ノイラミニダーゼ阻害
ラニナミビル(イナビル)吸入1回のみ対象は主に日本ノイラミニダーゼ阻害(長時間作用型)
バロキサビル(ゾフルーザ)内服1回のみ5歳以上(米国CDC)キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害

ゾフルーザだけはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬という新しいタイプのお薬です [2]。これはウイルスが細胞の中で自分のコピーを作る、まさにその「コピー機」を壊すようなイメージです。ウイルスの増殖そのものを直接ブロックするため、ウイルス量の減少がとても速いのが特徴です [2]。

一方、タミフルやリレンザ、イナビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬は、増殖したウイルスが細胞から飛び出して広がるのを防ぐお薬です [1]。

投与の利便性で見ると、イナビルは吸入1回、ゾフルーザは内服1回で済むという大きなメリットがあります。タミフルやリレンザは5日間飲み続ける(吸い続ける)必要がありますので、小さなお子さんの場合はお薬を飲ませ続けるのが大変ですよね。ただし、小さなお子さんは吸入がうまくできないこともありますので、内服のタミフルが最もよく使われています [3]。

イナビルはラニナミビルという長時間作用型のノイラミニダーゼ阻害薬で、1回の吸入でオセルタミビル5日間投与と同等の効果が示されています [4]。

ポイント インフルエンザの薬は大きく2つのタイプに分かれます。ノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル・リレンザ・イナビル)はウイルスの「脱出」を防ぎ、ゾフルーザはウイルスの「コピー」を止めます。お子さんの年齢や状況に合わせて医師が最適な薬を選びます。

Q2. タミフルを飲むと異常行動を起こすって本当ですか?

お母さん: 「タミフルを飲んだ子どもが窓から飛び降りたというニュースを見たことがあります。怖くて飲ませたくないのですが…」

おかもん先生: お気持ちはよくわかります。とても大切なご質問です。結論から申し上げますと、異常行動の原因はタミフルではなく、インフルエンザそのものであることが、現在の医学的コンセンサスです。

まず歴史的な経緯をお話しします。2007年に、タミフルを服用した10代のお子さんが転落死する事故が報告され、厚生労働省は10代の患者へのタミフル処方を原則として差し控えるよう警告を出しました [5]。

しかしその後、厚生労働省の研究班が2006年から2013年にかけて、約1万人の小児・未成年者を対象にした大規模調査を行いました。その結果、異常行動はタミフルを服用した患者だけでなく、他の抗インフルエンザ薬(イナビル、リレンザ、ラピアクタ)を服用した患者、そして抗インフルエンザ薬を一切使用していない患者でも同様に報告されたのです [6]。

具体的なデータをご紹介します。2009年から2016年の調査では、100万処方あたりの10代の異常行動報告数は以下の通りでした [5][6]:

  • タミフル:6.5件
  • イナビル:3.7件
  • リレンザ:4.8件
  • ラピアクタ:36.5件(※静注薬のため重症例に限定して使用され、処方母数が小さいことに注意)
  • 抗インフルエンザ薬なし:8.0件

つまり、薬を飲まなくても異常行動は起きるのです。これはインフルエンザウイルスが脳に影響を与え、高熱やウイルスの作用によって「インフルエンザ脳症」に近い状態が生じることが原因と考えられています [6][7]。

オセルタミビル(タミフル)の脳脊髄液(脳や脊髄を満たしている液体)への移行性は非常に低いことが薬理学的にも確認されており、タミフルが脳に直接作用して異常行動を引き起こすメカニズムは考えにくいとされています [8]。

さらに、Dobsonらが2015年にLancet誌に発表した個別患者データのメタアナリシス(複数の研究結果をまとめて分析する手法)でも、オセルタミビル投与群で神経学的・精神医学的有害事象の増加は認められませんでした [9]※。なお、Cochrane Collaboration(国際的な独立研究機関)による独立レビューでも、この点については同様の結論が得られています。

※ [9]のメタアナリシスはオセルタミビルの製造販売元であるRoche社の資金提供を受けて実施されたものです。ただし、異常行動との因果関係を否定する結論は、上記の独立レビューや日本の大規模疫学調査 [6] とも一致しています。

これらのエビデンスを踏まえ、厚生労働省は2018年8月に10代へのタミフル処方制限を正式に解除しました [5]。

ただし、ここで最も大切なことをお伝えします。薬の種類に関わらず、インフルエンザにかかったお子さんは発症から少なくとも2日間は目を離さないでください。 特に就寝時の転落防止が重要です。窓の鍵をしっかり閉め、ベランダに出られないようにする、2階以上の部屋で寝かせる場合は特に注意する、といった対策をお願いしています [5][6]。

ポイント 異常行動の原因は「タミフル」ではなく「インフルエンザそのもの」です。どの薬を飲んでも、薬を飲まなくても起こりえます。大切なのは、発熱から2日間はお子さんから目を離さず、窓やベランダの安全対策を行うことです。

Q3. ゾフルーザは1回飲むだけでいいと聞きましたが、デメリットはないのですか?

お母さん: 「ゾフルーザは1回飲むだけでいいなら楽ですよね。デメリットがなければゾフルーザにしてほしいのですが…」

おかもん先生: たしかに、ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)は1回の内服で治療が完了するという大きなメリットがあります。2018年に発表されたCAPSTONE-1試験では、健康な成人・青年において症状軽快までの時間がプラセボに比べて有意に短く(53.7時間 vs 80.2時間)、投与翌日のウイルス量の低下もオセルタミビルより速いことが示されました [2]。

さらに2020年のCAPSTONE-2試験では、ハイリスク患者においてもプラセボに対する優越性が確認されています [10]。小児を対象としたminiSTONE-2試験でも、1~12歳の小児におけるゾフルーザの安全性と有効性がオセルタミビルと同等であることが示されました [11]。

しかし、注意すべき点が1つあります。それは「耐性変異」(ウイルスが変化して薬が効きにくくなること)の問題です。

CAPSTONE-1試験では、ゾフルーザ投与群の約9.7%でPA/I38T変異と呼ばれる耐性変異が出現しました [2]。この変異が起きるとゾフルーザの効きが悪くなります。

特に問題なのは小児で耐性が出やすいことです。日本の国立感染症研究所(NIID)による監視データでは、2018-19シーズンにおいてA(H3N2)型ウイルスでのI38変異検出率が約9.5%に達し、その多くが12歳未満の小児からの検出でした [12][13]。さらに、ゾフルーザを使用していない小児からも耐性変異ウイルスが検出され、ヒトからヒトへの伝播が示唆されています [12]。

miniSTONE-2試験でも、小児におけるPA/I38変異の出現が確認されています [11]。

このため、現時点では特に小児への使用については慎重な判断が必要です。IDSAガイドラインでも、治療薬の選択にあたっては耐性の問題を考慮することが推奨されています [1]。

ポイント ゾフルーザは「1回飲むだけ」という利便性が大きなメリットですが、特に小児では耐性ウイルス(PA/I38T変異)が出やすいという課題があります。お子さんの年齢や状態に応じて、医師と相談のうえ最適な薬を選びましょう。

Q4. 薬は発症から48時間以内じゃないと意味がないのですか?

お母さん: 「発症から2日過ぎたら薬を飲んでも意味がないと聞いたのですが、本当ですか?受診が遅れた場合はどうなりますか?」

おかもん先生: とても大事なポイントですね。たしかに、抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内に開始するのが最も効果的です。これはどの治療薬においても共通しています [1][3]。

タミフルの場合、48時間以内に投与を開始すると症状の持続時間が約25時間短縮され、下気道合併症のリスクも減少し、入院率も低下することがメタアナリシスで示されています [9]。ゾフルーザのCAPSTONE試験でも、登録基準は発症48時間以内でした [2][10]。

しかし、「48時間を過ぎたら全く意味がない」というわけではありません。

CDCのガイダンスでは、以下のような場合には48時間を超えていても抗ウイルス薬の投与を検討すべきとしています [3]:

  • 入院を要する患者
  • 重症化している、または進行性の病状がある場合
  • 合併症のハイリスク群(5歳未満、特に2歳未満の小児、基礎疾患のある方など)

IDSAガイドラインでも、入院患者においては発症からの経過時間にかかわらず抗ウイルス薬を投与すべきとしており、外来のハイリスク患者においても48時間を超えた場合の投与を推奨しています [1]。

ですから、「48時間を過ぎたから手遅れだ」と諦めないでください。お子さんの状態が悪化している場合や、もともとリスクの高いお子さんの場合は、48時間を超えていても受診する意味は十分あります。

もちろん、早ければ早いほど効果は高いので、インフルエンザかなと思ったら早めに小児科を受診してくださいね。

ポイント 抗インフルエンザ薬は発症48時間以内の開始が最も効果的ですが、重症の場合やハイリスクのお子さんでは48時間を過ぎても投与する意義があります。「遅いかも」と思っても、迷ったら受診してください。

Q5. 薬を使わずに自然に治した方がいいのではないですか?

お母さん: 「インフルエンザは自然に治る病気だと聞きました。薬を使わない方が免疫がつくのではないですか?」

おかもん先生: おっしゃる通り、インフルエンザは多くの場合、健康な大人であれば自然に回復する病気です。しかし、小さなお子さんの場合は話が変わります。

CDCは、5歳未満(特に2歳未満)の小児をインフルエンザの合併症ハイリスク群に分類しています [3]。小児では以下のような合併症のリスクがあるためです:

  • 中耳炎(お子さんのインフルエンザで最も多い合併症の1つ)
  • 肺炎
  • 気管支炎
  • 熱性けいれん
  • まれにインフルエンザ脳症

抗ウイルス薬の投与により、小児においては中耳炎の発生率の低下や抗菌薬使用の減少が示されています [3]。Dobsonらのメタアナリシスでは、オセルタミビル投与群で抗菌薬を必要とする下気道合併症のリスクが有意に低下し(4.9% vs 8.7%)、入院率も低下しました(0.6% vs 1.7%)[9]※。

※ Cochrane Collaborationの独立レビューでは、オセルタミビルの入院率低下効果についてはより慎重な評価がなされています。合併症の予防効果については学術的な議論が継続していますが、CDCおよびIDSAガイドラインは小児への積極的な治療を推奨しています [1][3]。

「薬を使わない方が免疫がつく」という考えについてですが、抗インフルエンザ薬はウイルスを完全に消滅させるのではなく、ウイルスの増殖を抑えるお薬です。治療を受けても体はウイルスに対する免疫応答を行いますので、免疫がつかなくなるということはありません。

特にお伝えしたいのは、IDSAガイドラインでは小児のインフルエンザに対して積極的な抗ウイルス薬治療を推奨しているということです [1]。「自然に治るから大丈夫」と考えて受診が遅れ、合併症が重症化してしまうケースがありますので、注意が必要です。

もちろん、すべてのお子さんに必ず抗ウイルス薬が必要というわけではありません。お子さんの年齢、基礎疾患の有無、症状の程度を総合的に判断して、かかりつけの小児科医と相談して治療方針を決めることが大切です。

ポイント 小児はインフルエンザの合併症リスクが高いため、「自然に治す」ことにこだわるのは危険な場合があります。抗ウイルス薬は中耳炎や肺炎などの合併症を減らす効果があり、免疫がつかなくなる心配もありません。かかりつけ医と相談して適切な治療を受けましょう。

まとめ

今回のおかもんだよりでは、インフルエンザの治療薬と「異常行動」について、最新のエビデンスをもとにお話ししました。大切なポイントを整理します。

  1. 2

    インフルエンザの薬は2タイプ:ノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル・リレンザ・イナビル)とキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(ゾフルーザ)があり、お子さんの年齢・状態に合わせて選択します。

  2. 4

    異常行動の原因は薬ではなくインフルエンザそのもの:どの薬を飲んでも、飲まなくても起こりえます。発熱から2日間はお子さんの見守りと転落防止策が最も重要です。

  3. 6

    ゾフルーザは便利だが耐性に注意:1回内服で済む利便性は魅力的ですが、特に小児では耐性ウイルス出現のリスクがあります。

  4. 8

    48時間ルールは絶対ではない:早期投与が最も効果的ですが、重症例やハイリスクのお子さんでは48時間を過ぎても治療の意義があります。

  5. 10

    小児の「自然治癒」への過信は禁物:合併症リスクを考えると、適切な抗ウイルス薬治療は大切です。

インフルエンザの季節、一番大切なのは「正しく恐れ、正しく対処する」ことです。お子さんの様子がおかしいなと思ったら、迷わず小児科を受診してくださいね。

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愛育病院 小児科 おかもん

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※ この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さんの症状が心配な場合は、かかりつけの小児科医にご相談ください。

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