愛育病院 小児科おかもん だより Vol.24
「離乳食を遅らせたほうがアレルギーを防げる」は間違いだった
今号のポイント
- 2離乳食を遅らせてもアレルギーは防げない。むしろ逆効果になる
- 4大規模臨床試験で「早期に少量から食べさせる」ほうが予防効果が高いと証明済み
- 6正しい方法で適切な時期に始めれば、安全にアレルギー予防ができる
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「卵は1歳まであげないほうがいい」「アレルギーが心配だから離乳食は遅めに」。こんな話を聞いたことはありませんか? 実はこの考え方はすでに医学的に否定されています。正しい方法で適切な時期に始めれば、安全にアレルギー予防ができます。
今回は、離乳食の開始時期とアレルギー予防の最新エビデンスについてお伝えします。
Q1.「離乳食を遅らせればアレルギーは防げるんですよね?」
——母から「卵は1歳過ぎてからにしなさい」と言われました。アレルギーが怖いので遅めに始めたほうがいいですか?
お気持ちはわかりますが、離乳食を遅らせてもアレルギーは防げません。むしろ逆効果になることがわかっています [1]
——逆効果ですか?
はい。実は2000年代前半までは「アレルギーが心配なら離乳食を遅らせるべき」という指導が世界中で行われていました。しかしその後、大規模な臨床試験で「早期に少量から食べさせたほうがアレルギーを予防できる」ことが証明され、ガイドラインが180度変わったのです
この背景には「二重アレルゲン暴露仮説」があります(vol017でも触れました)。食物アレルゲンは皮膚から入ると「敵」として認識されアレルギーになりますが、口から入ると「食べ物」として認識され免疫寛容(体がその食物を「安全な食べ物」と認識する仕組み)が作られます [2]。つまり、食べる前に湿疹のある肌から経皮感作(荒れた皮膚からアレルゲンが入り込んでアレルギーになること)されてしまうと、アレルギーになりやすいのです
ポイント
- 離乳食を遅らせてもアレルギーは防げない。むしろ逆効果 [1]
- 口から食べる → 免疫寛容(アレルギー予防)
- 荒れた皮膚から侵入 → 経皮感作(アレルギー発症) [2]
Q2.「それを証明した研究があるのですか?」
——本当に食べさせたほうがアレルギーが減るんですか?
はい。世界的に有名な3つの臨床試験をご紹介します
- 2LEAP試験(ピーナッツ、2015年)[3]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 重症湿疹や卵アレルギーのある高リスク乳児640名 |
| 方法 | 生後4-11ヶ月からピーナッツを食べる群 vs 完全除去群 |
| 結果 | 5歳時のピーナッツアレルギー発症率: 食べた群3.2% vs 除去群17.2% |
| 意義 | 早期摂取で約80%のリスク低下 |
- 2PETIT試験(卵、2017年)[4]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 湿疹のある日本人乳児121名 |
| 方法 | 生後6ヶ月から少量の加熱卵粉末 vs プラセボ |
| 結果 | 1歳時の卵アレルギー発症率: 卵摂取群8% vs プラセボ群38% |
| 意義 | 日本人データで約80%のリスク低下を証明 |
- 2EAT試験(複数食物、2016年)[5]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 一般集団の乳児1,303名 |
| 方法 | 生後3ヶ月から6種類のアレルゲン食品を導入 vs 生後6ヶ月まで除去 |
| 結果 | プロトコル遵守群では有意な予防効果あり |
| 意義 | 一般集団でも早期導入の安全性と有効性を確認 |
特にPETIT試験は日本人を対象にした研究で、卵アレルギーの発症が約80%減ったという画期的なデータです。これが日本のガイドライン改定に大きな影響を与えました
ポイント
- LEAP試験: ピーナッツ早期導入でアレルギー80%減 [3]
- PETIT試験: 日本人データで卵早期導入のアレルギー80%減を証明 [4]
- EAT試験: 一般集団での早期導入の安全性を確認 [5]
Q3.「卵はいつから、どうやって始めればいいですか?」
——卵を早めに始めたほうがいいのはわかりました。具体的にはどうすればいいですか?
日本小児アレルギー学会の食物アレルギー診療ガイドライン2021と、厚生労働省の授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)の推奨を基に説明します [6][7]
卵の進め方(3ステップ):
ステップ1: 固ゆで卵黄(生後5-6ヶ月、離乳食開始から)
- 卵を20分以上しっかり加熱(固ゆで)
- まず卵黄のみ、耳かき1さじ程度から
- 問題なければ1日1/4個→1/2個と増量
- 各段階で1〜2週間様子を見る
ステップ2: 固ゆで全卵(生後7-8ヶ月頃)
- 卵黄が問題なければ、固ゆでの卵白を少量から
- 全卵1/4個→1/2個→2/3個と増量
ステップ3: 様々な調理法(生後9ヶ月以降)
- 卵焼き、スクランブルエッグなど
- 1歳未満での生卵は避ける
大事なポイントが3つあります
- 2必ず加熱から始める: 卵アレルゲンのオボムコイド(卵白に含まれる主要なアレルギー原因たんぱく質)は加熱で低アレルゲン化する
- 4体調のよい日の午前中に: 万が一の症状に対応できる時間帯に
- 6湿疹の治療を先に: PETIT試験でもまず湿疹を治療してから卵を導入している。肌が荒れた状態で食べ始めるのは逆効果の可能性
ポイント
- 固ゆで卵黄から、生後5-6ヶ月で開始 [6][7]
- 加熱が必須。生卵は1歳以降
- 湿疹を先に治療してから食物導入を始める(PETIT試験の手順)
Q4.「ピーナッツも早く食べさせたほうがいいですか?」
——LEAP試験ではピーナッツが効果的だったとのことですが、日本でも早くから食べさせるべきですか?
アメリカでは2017年にNIAID(米国国立アレルギー感染症研究所)が「高リスク乳児には生後4-6ヶ月からピーナッツ製品を導入すべき」というガイドラインを出しました [8]
日本では少し事情が異なります。日本人のピーナッツアレルギーの頻度はアメリカより低く、またピーナッツそのものは誤嚥(窒息)のリスクがあるため、慎重な姿勢です。ただし、食物アレルギー診療ガイドライン2021でも「アレルギー予防目的での特定食物の除去は推奨しない」と明記されています [6]
ピーナッツの安全な始め方:
- ピーナッツバター(粒なし)を少量から:小さじ1/4程度
- お湯や離乳食に混ぜてペースト状に
- 粒のままのピーナッツは5歳まで与えない(誤嚥リスク)
- 高リスク児(重症湿疹、他の食物アレルギーあり)はアレルギー専門医に相談してから
ポイント
- アレルギー予防目的での特定食物の除去は推奨されない [6]
- ピーナッツはペースト状にすれば乳児にも安全に導入可能
- 粒のままは5歳まで禁止(誤嚥リスク)
- 高リスク児はアレルギー専門医に相談してから
Q5.「アレルギーが怖くて離乳食を始められません。どうすればいいですか?」
——早く始めたほうがいいのは頭ではわかっているのですが、やっぱり怖いです
その不安は100%正常な気持ちです。でも、お伝えしたいことが2つあります
まず1つ目。食物アレルギーの多くは軽症です。卵アレルギーの初発症状の大半は軽い皮膚症状(じんましん、発疹)で、重篤なアナフィラキシーは非常にまれです。しかも、少量の加熱卵から始める方法であれば、仮に症状が出ても軽く済む可能性が高い
2つ目。食べないことのリスクのほうが大きいのです。先ほどのPETIT試験のデータを思い出してください。卵を食べなかった群の38%が卵アレルギーになったのに対し、食べた群はわずか8%。つまり「食べない」という選択のほうがアレルギーになるリスクが高いのです
安心して離乳食を始めるための4つのコツ:
- 2かかりつけ医に相談: 不安なことは健診や受診時に聞く
- 4湿疹がある子は先に治療: 肌をきれいにしてから食物導入
- 6少量から、加熱したものから: 耳かき1さじの固ゆで卵黄から
- 8体調のよい日の午前中に: 平日の午前中なら、万が一でもすぐ受診できる
アレルギーを恐れて離乳食を遅らせることが、かえってアレルギーのリスクを高めてしまう、この矛盾を知ることが大切です。適切な時期に、正しい方法で始めれば、アレルギー予防と栄養確保の両方が叶います
ポイント
- 食物アレルギーの初発症状の多くは軽い皮膚症状
- 「食べない」リスク > 「食べる」リスク(PETIT試験のデータ)
- 湿疹治療 → 少量加熱卵から → 体調のよい午前中に
まとめ
- 離乳食の遅延はアレルギー予防にならない。むしろ逆効果
- LEAP試験・PETIT試験で早期導入による約80%のリスク低下が証明
- 卵は生後5-6ヶ月に固ゆで卵黄から開始
- 湿疹の治療を先に行うことが重要
- ピーナッツはペースト状なら乳児にも安全
- 「食べないリスク」のほうが「食べるリスク」より大きい
あわせて読みたい
ご質問・ご感想をお待ちしています
「こんなこと聞いていいのかな?」というギモンこそ大歓迎です。 外来受診時にお気軽にお声がけいただくか、質問フォームからお寄せください。
次号も
愛育病院 小児科 おかもん
本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。