愛育病院 小児科おかもん だより Vol.12
「風邪に抗生物質を出さない先生は大丈夫?」、抗生物質にまつわる3つの誤解
今号のポイント
- 2風邪の原因の80〜90%はウイルス。抗生物質はウイルスには効かないので、風邪には不要
- 4「飲んだら治った」はタイミングの偶然。風邪は自然に3〜7日で治る
- 6「念のため」の抗生物質が耐性菌を生む最大の原因。本当に必要な時のために、不要な使用を控えることが大切
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマは抗生物質(抗菌薬)です。
「風邪で受診したのに抗生物質を出してもらえなかった」「前の小児科ではいつも出してくれたのに」「ちゃんと診てもらえているのかな……」。こうした声を外来で頻繁にいただきます。
まず安心していただきたいのは、お子さんの風邪はほとんどの場合、自然に元気に回復するということです。実は、抗生物質を出さない小児科医のほうが正しい判断をしていることが多いのです。今号では、その理由をお伝えします。
Q1.「風邪に抗生物質は効きませんか?」
お父さん「子どもが鼻水と咳で受診したんですが、『ウイルスの風邪だから抗生物質は必要ありません』と言われました。以前かかっていた病院では毎回出してもらっていたので、少し不安で……」
お気持ちはよくわかります。まず大前提からお話ししますね。風邪(急性上気道感染症=鼻やのどの感染症)の原因の80〜90%はウイルスです [1]。そして抗生物質はウイルスには一切効きません。抗生物質が効くのは細菌だけです
お父さん「ウイルスと細菌って違うんですか?」
はい、まったく別の生き物です。たとえるなら、虫刺されの薬を魚の骨が刺さった時に塗っても効かないのと同じです。ウイルスと細菌は構造もサイズも増え方もまったく違うので、細菌をやっつけるために作られた抗生物質は、ウイルスに対してはまったくの無力なんです [1]。厚生労働省も『抗微生物薬適正使用の手引き』の中で、感冒(いわゆる風邪)に対して抗菌薬投与を行わないことを推奨すると明記しています [2]
お父さん「ということは、前の病院で毎回もらっていた抗生物質は……」
正直に言えば、不要だった可能性が高いです。日本は先進国の中でも抗生物質の不適切使用が多い国のひとつとして知られていました [2]。近年は改善に向けた取り組みが進んでいますが、まだ『とりあえず出しておく』という文化が残っている面もあります
ポイント
- 風邪の原因の80〜90%はウイルス。抗生物質はウイルスには効かない [1]
- 厚生労働省も風邪に抗生物質を出さないことを推奨 [2]
- 抗生物質を出さない小児科医は、正しい判断をしている可能性が高い
Q2.「でも抗生物質を飲んだら早く治ったんですが?」
お父さん「前に抗生物質を出してもらった時、2〜3日で良くなりました。効いていたんじゃないですか?」
これは本当によくある誤解で、タイミングの偶然が原因です。普通の風邪は、抗生物質があってもなくても、だいたい3〜7日で自然に治ります [3]。たまたま抗生物質を飲み始めたタイミングと、風邪が自然に良くなるタイミングが重なっただけなんです
お父さん「言われてみれば……風邪は何もしなくても1週間くらいで治りますもんね」
その通りです。これは医学では『自然経過との混同』と呼ばれる現象です。多くのランダム化比較試験(RCT=薬の効果を科学的に検証する最も信頼性の高い研究方法)で、風邪に抗生物質を使っても使わなくても、症状の改善スピードに有意な差はないことが繰り返し確認されています [3]。むしろ抗生物質には副作用のリスクがあります。下痢、発疹、アレルギー反応などが代表的で、お子さんの場合は抗生物質による下痢は特に多いんです [4]
お父さん「効かないのに副作用はあるんですか……」
はい。効果がないのに副作用のリスクだけを背負わせる。これが不必要な抗生物質の処方の問題点なんです
ポイント
- 風邪は抗生物質なしでも3〜7日で自然に治る [3]
- 「飲んだら治った」はタイミングの偶然(自然経過との混同)
- 不要な抗生物質には下痢・発疹・アレルギーの副作用リスクのみが残る [4]
Q3.「でも、念のために飲んでおいたほうが安心じゃないですか?」
お父さん「効かないのはわかりました。でも、万が一細菌感染が混じっていた時のために、「念のため」飲んでおけば安心じゃないですか?」
その「念のため」が、実は最も危険な考え方なんです。ただ、正しい知識を持っていれば防げることですので安心してくださいね。不要な抗生物質の使用は、耐性菌(たいせいきん=抗生物質が効かなくなった細菌)を生み出す最大の原因です [5]
お父さん「耐性菌って何ですか?」
抗生物質が効かなくなった細菌のことです。抗生物質を使うと、体の中にいるたくさんの細菌の大半はやっつけられます。しかし、たまたま耐性を持った少数の細菌が生き残り、今度はそいつらが増殖するんです。これが繰り返されると、どんな抗生物質も効かない「スーパーバグ」が生まれてしまいます [5]
お父さん「それは怖いですね……。自分の子どもの体の中でそれが起こるんですか?」
はい。WHO(世界保健機関)は、薬剤耐性(AMR=Antimicrobial Resistance、抗生物質が効かなくなる現象)を人類の健康に対する最大の脅威のひとつと位置づけています [5]。すでに世界で年間約127万人が薬剤耐性菌感染で亡くなっているとする推定もあります。これはHIV/AIDS(エイズ)やマラリアによる死亡数を上回る数字です [6]。お子さんが将来、本当に抗生物質が必要な重い感染症にかかった時に、「念のため」使った抗生物質のせいで効く薬がなくなっている、そんな事態を防ぐために、今、不要な抗生物質を使わないことが大切なんです
お父さん「「念のため」が将来の「万が一」を奪ってしまうかもしれないんですね……」
ポイント
- 「念のため」の抗生物質が耐性菌を生み出す最大の原因 [5]
- 世界で年間約127万人が薬剤耐性菌感染で死亡している推定 [6]
- 今不要な抗生物質を使わないことが、将来の「本当に必要な時」を守る
Q4.「じゃあ、抗生物質が本当に必要な時ってどんな時ですか?」
お父さん「風邪には要らないのはわかりました。でも、中耳炎とか肺炎とかには必要ですよね?」
はい、細菌感染が原因である場合には、抗生物質は命を救う重要な薬です。お子さんで抗生物質が必要になることが多い代表的な疾患としては、急性中耳炎(重症の場合)、溶連菌感染症(溶連菌による咽頭炎)、細菌性肺炎、尿路感染症などがあります [2]
お父さん「風邪と細菌感染って、見分けがつくものなんですか?」
完璧に見分けるのは実は難しいのですが、私たちはいくつかの手がかりを使っています。たとえば溶連菌感染症の場合は迅速検査キットで10分程度で診断できます。また、鼻水が10日以上まったく改善しない場合や、いったん良くなりかけてから再び悪化した場合は、副鼻腔炎などの細菌感染の合併を疑います [2]。こうした場合は、抗生物質を使う明確な理由があるわけです
お父さん「明確な理由があれば使うけど、「とりあえず」では出さない、ということですね」
まさにその通りです。そしてもうひとつ大事なことがあります。処方された抗生物質は、用法・用量を自己判断で変えないでください。症状が良くなったからといって勝手に減量したり、逆に飲み残しを他の場面で使い回したりするのは避けてください。不適切な使用は薬剤耐性菌の拡大につながります [7]。服用期間について迷ったときは、処方した医師に相談してください
ポイント
- 細菌感染症(中耳炎重症例、溶連菌、肺炎、尿路感染症)には抗生物質が必要 [2]
- 「10日以上改善しない鼻水」「いったん良くなってから再悪化」は細菌感染のサイン [2]
- 処方された抗生物質は最後まで飲み切ることが耐性菌予防に重要 [7]
Q5.「抗生物質を出さない先生に対して、親としてどう接すればいいですか?」
お父さん「正直、今まで『抗生物質を出してくれない=ちゃんと診てくれない』と思っていました。考え方を改めたいです」
そう思ってくださるだけで十分です。実は、不要な抗生物質を「出さない」という判断は、「出す」よりずっと勇気がいることなんです。保護者のみなさんに不安を与えてしまうかもしれないとわかっていて、それでもお子さんの将来のために正しい判断をしている。そういう先生は信頼していただいて大丈夫だと思いますよ
お父さん「たしかに……。薬を出すほうが簡単ですもんね」
はい。ですから、もし受診して『抗生物質は必要ありません』と言われた時は、こう聞いてみてください。『この症状が何日くらい続いたら、もう一度受診したほうがいいですか?』。この質問ひとつで、経過観察の目安と再受診のタイミングがわかります。私たちもそれが聞けると、とてもありがたいんです
ポイント
- 抗生物質を出さない判断は、勇気ある正しい医療
- 受診時のベストな質問:「何日続いたらまた来たほうがいいですか?」
今号のまとめ
- 風邪の80〜90%はウイルスが原因。抗生物質はウイルスに効きません [1]
- 「飲んだら治った」はタイミングの偶然。風邪は自然に治ります [3]
- 「念のため」の抗生物質が耐性菌を生む最大の原因。世界で年間127万人が死亡 [5][6]
- 細菌感染には抗生物質は必要。処方されたら最後まで飲み切る [2][7]
- 抗生物質を出さない先生に聞くべき質問:「何日続いたら再受診ですか?」
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