愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.167
アナフィラキシーの対応とエピペン、「迷ったら打つ」が命を守る
今号のポイント
- 2アナフィラキシーは複数の臓器にアレルギー症状が同時に出る重篤な反応。食物が最多の原因
- 4エピペンは太ももの外側に打つだけ。「迷ったら打つ」が国際的なコンセンサス
- 6園・学校のアレルギー対応は「アクションプラン」の作成と共有が命綱
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマはアナフィラキシーとエピペンです。
「うちの子にエピペンが処方されたけど、本当に自分で打てるか不安」「園の先生にどこまでお願いしていいのかわからない」、こうしたご相談は外来で非常に多いです。
アナフィラキシーは命に関わる緊急事態ですが、正しい知識と準備があれば怖くありません。 今号では、アナフィラキシーの見分け方、エピペンの使い方、園・学校での対応について、できるだけ具体的にお伝えします。
Q1.「アナフィラキシーって何ですか? ふつうのアレルギーと何が違うんですか?」
——食物アレルギーでじんましんが出たことがありますが、それとアナフィラキシーは何が違うんですか?
じんましんだけ(皮膚だけの症状)であれば、それは単一臓器のアレルギー反応です。アナフィラキシーは、複数の臓器に症状が急速に出現する重篤なアレルギー反応と定義されています [1][2]
| 分類 | 症状の範囲 | 例 | 緊急度 |
|---|---|---|---|
| 軽症アレルギー反応 | 1つの臓器のみ | じんましんだけ、口のかゆみだけ | 経過観察可能な場合も |
| アナフィラキシー | 2つ以上の臓器に同時に | じんましん + 咳 + 嘔吐 | 緊急。エピペン + 救急車 [1] |
| アナフィラキシーショック | 血圧低下・意識障害を伴う | 上記 + ぐったり・意識もうろう | 超緊急。直ちにエピペン + 救急車 [1] |
——複数の臓器に症状が出るかどうかが基準なんですね
はい。具体的には、以下の臓器系に注目します [1][2]
| 臓器系 | アナフィラキシーの症状 |
|---|---|
| 皮膚・粘膜 | 広範囲のじんましん、発赤、唇や顔の腫れ(血管性浮腫) |
| 呼吸器 | 咳、ゼーゼー(喘鳴)、声がかすれる、呼吸困難、のどが締まる感じ |
| 消化器 | 嘔吐、腹痛、下痢 |
| 循環器 | 顔色が蒼白、ぐったり、血圧低下、意識障害 |
日本の小児で最も多いアナフィラキシーの原因は食物です。鶏卵、牛乳、小麦が三大原因ですが、木の実類(くるみ、カシューナッツ)の報告が近年急増しています [3]。食物以外では、蜂刺され、薬剤、ラテックス(ゴム)なども原因になります [1]
ポイント
- アナフィラキシーは複数の臓器に症状が同時に出る重篤なアレルギー反応 [1]
- 皮膚 + 呼吸器、皮膚 + 消化器など2つ以上の臓器系が基準 [1][2]
- 小児の原因は食物が最多。木の実類が急増中 [3]
Q2.「アナフィラキシーの症状をどうやって見分ければいいですか?」
——パニックにならずに見分けられるか心配です……
大切なのは"1つの臓器に留まっていないか"を確認することです [1]。以下のチェックリストで判断してください
アナフィラキシーを疑う3つのパターン [1][2]
パターン1(最も典型的): アレルゲン(食べ物など)に曝露後、数分〜数時間以内に、以下のうち2つ以上の臓器系に症状が出現
- 皮膚・粘膜の症状(じんましん、浮腫)
- 呼吸器症状(咳、喘鳴、呼吸困難)
- 消化器症状(嘔吐、腹痛、下痢)
- 循環器症状(血圧低下、ぐったり)
パターン2: 既知のアレルゲンに曝露後、急激な血圧低下(ぐったり、意識もうろう)
パターン3: 皮膚症状だけでも、急速に悪化している場合(全身に広がるじんましん + 息苦しさの出現)
——時間的にはどのくらいで症状が出ますか?
多くは曝露後5〜30分以内に症状が始まります [1]。ただし、食物の場合は2時間以内に発症することもあります。特に注意すべきは、症状が急速に進行する場合です。じんましんが出た→咳が始まった→嘔吐した、というように短時間で症状が増えていく場合はアナフィラキシーの可能性が高いです [1]
もう一つ覚えておいていただきたいのが二相性反応です [4]。アナフィラキシーの約5〜20%で、いったん症状が治まった後、数時間〜12時間後に再び症状が出現することがあります [4]。そのため、アナフィラキシーが起きた場合は、症状が落ち着いても必ず医療機関で数時間の経過観察が必要です
ポイント
- 「2つ以上の臓器に症状」がアナフィラキシーの基本的な判断基準 [1]
- 多くは曝露後5〜30分以内に発症。症状が急速に進行する場合は要注意 [1]
- 二相性反応(数時間後の再発)があるため、必ず医療機関で経過観察 [4]
Q3.「エピペンはどうやって使うんですか? 怖くて打てる気がしません」
——エピペンを処方されましたが、注射なんて怖くて……。本当に私が打っていいんですか?
お気持ちはわかりますが、エピペンは保護者の方が打つことを想定して作られた薬です。針は見えない設計になっており、操作は非常にシンプルです [5]。一つずつ確認していきましょう
エピペンの使い方 [5]
操作
- 1. 取り出す
- ケースから取り出す
- 2. 安全キャップを外す
- 青い安全キャップを引き抜く
- 3. 太ももに押し当てる
- 太ももの外側(中央あたり)に、オレンジの先端を垂直に押し当てる
- 4. カチッと音がするまで押す
- しっかり押し当てると自動で針が出る
- 5. 5秒間押し続ける
- 押し当てたまま5秒数える
- 6. 引き抜く
- まっすぐ引き抜く
- 7. 119番に電話
- エピペンを打った後、必ず救急車を呼ぶ
ポイント
- 1. 取り出す
- オレンジ色の先端が注射側
- 2. 安全キャップを外す
- 「青を抜く」と覚える
- 3. 太ももに押し当てる
- 服の上からでOK [5]
- 4. カチッと音がするまで押す
- パチンという感触
- 5. 5秒間押し続ける
- 薬液が注入される
- 6. 引き抜く
- 使用後は針カバーが自動で閉じる
- 7. 119番に電話
- 使用済みエピペンは救急隊に渡す
——服の上からでいいんですか?
はい、ズボンの上からでも、タイツの上からでも打てます [5]。緊急時に服を脱がせる時間はありません。太ももの外側の筋肉(外側広筋)に打ちます
——打つ場所を間違えたらどうしよう……
太ももの外側の、だいたい真ん中あたりを目安にしてください [5]。多少ずれても問題ありません。"正確な場所に打つこと"よりも"打つこと自体"がはるかに重要です
エピペンの種類
対象体重
- エピペン 0.15mg
- 体重15〜30kg
- エピペン 0.3mg
- 体重30kg以上
アドレナリン量
- エピペン 0.15mg
- 0.15mg [5]
- エピペン 0.3mg
- 0.3mg [5]
エピペンの有効期限は約1年です [5]。定期的に確認し、期限切れのものは交換してください。透明な窓から薬液が見えますが、変色や沈殿物がある場合は使用せず、新しいものを処方してもらってください
ポイント
- 「青を抜いて、太ももにオレンジを押し当て、カチッ、5秒」が手順 [5]
- 服の上からでOK。場所は太ももの外側 [5]
- 打った後は必ず救急車を呼ぶ [5]
- 有効期限は約1年。定期的に確認を
Q4.「エピペンを打つタイミングがわかりません。打って大丈夫ですか?」
——打つのが早すぎたらダメですか? 逆に、軽い症状で打って副作用が出たりしませんか?
結論から申し上げます。「迷ったら打つ」が国際的なコンセンサスです [1][5][6]。エピペンを打つべきだったのに打たなかった場合のリスク(死亡)と、不要だったのに打った場合のリスク(動悸・頭痛程度で一過性)を比べると、打たないリスクのほうが圧倒的に大きいからです [6]
エピペンを打つべきタイミング [1][5][6]
以下のいずれかに当てはまったら迷わず打ってください。
| 状況 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 呼吸器症状がある | 繰り返す咳、ゼーゼー(喘鳴)、声がかすれる、呼吸困難 |
| 循環器症状がある | 顔色が蒼白、ぐったり、唇の色が悪い、意識がもうろう |
| 消化器 + 皮膚 | 嘔吐を繰り返す + じんましんが広がっている |
| 過去に重篤な反応があった | 同じアレルゲンに曝露した可能性がある |
| 急速に症状が進行 | 短時間で症状が次々と増えている |
——打ちすぎの副作用は大丈夫ですか?
エピペンの成分はアドレナリン(エピネフリン)です。打った後に動悸、手の震え、顔面蒼白が見られることがありますが、これらは一過性で危険なものではありません [5][6]。アドレナリンは体内でも作られている物質なので、不要に打ったとしても重大な副作用が起きることはほとんどありません [6]
むしろ問題なのは、エピペンの使用が遅れることです [6]。アナフィラキシーによる死亡例の分析では、アドレナリン投与の遅れが死亡の最も重要なリスク因子であることが繰り返し報告されています [6]。"様子を見よう"と待つ時間が命を脅かすのです
ポイント
- 「迷ったら打つ」が国際的なコンセンサス [1][5][6]
- 打たないリスク(死亡)>> 打ちすぎのリスク(動悸等、一過性)[6]
- アドレナリン投与の遅れが死亡の最大リスク因子 [6]
- 呼吸器症状・循環器症状が出たら迷わず打つ
Q5.「園や学校でアナフィラキシーが起きたらどうすればいいですか?」
——保育園にエピペンを預けていますが、先生方はちゃんと対応できるんでしょうか?
園・学校でのアレルギー対応は、事前の準備(アクションプラン)がすべてです [7][8]。実際にアナフィラキシーが起きてから「どうしよう」では遅い。事前に役割分担と手順を決めておくことが命を守ります
アクションプラン(緊急時対応計画)に含めるべき内容 [7][8]
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因アレルゲン | 何に対してアレルギーがあるか(卵、牛乳、小麦、くるみ等) |
| 症状の段階と対応 | 軽症(じんましんのみ)→ 抗ヒスタミン薬 + 経過観察 |
| 中等症〜重症(呼吸器症状、嘔吐)→ エピペン + 救急車 | |
| エピペンの保管場所 | 職員室・保健室など、すぐに取り出せる場所 [8] |
| 役割分担 | 誰がエピペンを打つ / 誰が119番に電話 / 誰が保護者に連絡 |
| 緊急連絡先 | 保護者、かかりつけ医、救急病院 |
| 主治医のサイン | 医師が作成した「アレルギー疾患生活管理指導表」 [8] |
——先生がエピペンを打ってくれるんですか?
はい。文部科学省および厚生労働省の通知により、教職員や保育士がエピペンを打つことは法的に認められています(医師法違反にはなりません)[7][8]。"医行為"ではあるが、"緊急やむを得ない措置"として違法性は問われないと明記されています
ただし、法的に認められているのと、実際にスムーズに対応できるのは別問題です。大切なのは、年に1〜2回のエピペン練習訓練(トレーナーを使った模擬訓練)を園・学校で行うこと、そしてアクションプランを全職員が共有していることです [7][8]
救急車を呼ぶ判断基準 [1][7]
| すぐに119番 | 経過観察で可能な場合 |
|---|---|
| エピペンを使用した | じんましんのみ(1臓器)で安定している |
| 呼吸困難がある | 口やのどのかゆみ・違和感のみで悪化なし |
| ぐったりしている・意識がない | |
| 症状が急速に進行している | |
| 以前にアナフィラキシーの既往がある |
ポイント
- アクションプラン(緊急時対応計画)の事前作成が命を守る [7][8]
- 教職員・保育士がエピペンを打つことは法的に認められている [7][8]
- 年1〜2回のエピペン訓練と全職員への情報共有が必須
- エピペンを使用したら必ず救急車
Q6.「アナフィラキシーを経験した後、どう過ごせばいいですか?」
——アナフィラキシーを起こしてしまったら、この先どうなるんですか? また起きるんでしょうか?
アナフィラキシーを経験した後は、再発を防ぎながら、できるだけ普通の生活を送ることが目標です [1][9]。以下の3つを必ず行ってください
アナフィラキシー後のフォローアップ
| やるべきこと | 内容 |
|---|---|
| 1. アレルギー専門医を受診 | 原因アレルゲンの精査(血液検査+食物経口負荷試験)[9] |
| 2. エピペンの処方・携帯 | 2本処方が推奨される場合も。常に携帯 [5] |
| 3. アクションプランの作成・更新 | かかりつけ医と一緒に作成し、園・学校に提出 [7][8] |
"また起きるのでは"という不安は当然です。でも、原因がわかっていればそれを避けることができますし、エピペンがあればいざという時にも対処できます。不安に押しつぶされて過度に生活を制限するのではなく、正しい知識と準備で安心を手に入れることが大切です [9]
——原因の食べ物は一生食べられないんですか?
そうとは限りません。特に卵・牛乳・小麦のアレルギーは成長とともに治る(耐性獲得する)お子さんが多いです [9]。ただし、自己判断で食べさせることは絶対にしないでください。食物経口負荷試験(次号のVol.168で詳しくお話しします)で、安全に食べられるかどうかを確認していきます
最後に、一つだけお願いがあります。エピペンを処方されたら、定期的に使い方を復習してください。いざという時にスムーズに使えるよう、エピペンのトレーナー(練習用の模擬品)でご家庭でも年に数回は練習することをおすすめします [5]
ポイント
- アナフィラキシー後は専門医受診 + エピペン携帯 + アクションプラン作成 [5][7][9]
- 卵・牛乳・小麦は成長とともに耐性獲得するケースが多い [9]
- エピペンの使い方は定期的に復習・練習を [5]
まとめ
- アナフィラキシーは複数の臓器にアレルギー症状が同時に出る重篤な反応 [1][2]
- 小児の原因は食物が最多。鶏卵、牛乳、小麦、木の実類に注意 [3]
- エピペンは太ももの外側に押し当てるだけ。服の上からでOK [5]
- 「迷ったら打つ」が鉄則。打たないリスクが打ちすぎのリスクを圧倒的に上回る [1][5][6]
- 園・学校ではアクションプランの事前作成と全職員での共有が命を守る [7][8]
- アナフィラキシー後は専門医で原因精査。自己判断での摂取は厳禁 [9]
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