愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.155
「免疫力を上げるサプリ」より大切なこと、子どもの免疫を守る生活習慣
今号のポイント
- 2「免疫力」は単一の数値で測れない。睡眠・食事・運動という基本の生活習慣こそが免疫機能の土台
- 4「免疫力を上げるサプリ」の科学的根拠は乏しい。お金をかけるべきは睡眠環境と食事のバランス
- 6保育園入園後の風邪ラッシュは免疫の「訓練」。心配しすぎなくて大丈夫
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「免疫力を上げたい」「風邪をひきにくい体にしたい」。お子さんを持つ保護者の方なら、誰もが一度は考えることだと思います。ドラッグストアには「免疫力アップ」を謳う商品がずらりと並び、SNSでは「○○を食べれば免疫力が上がる」という情報が飛び交っています。
でも、ちょっと待ってください。そもそも「免疫力」って何でしょうか? 今号では、免疫の仕組みを科学的に整理し、本当に子どもの免疫を守るためにできることをお伝えします。
Q1.「免疫力って何ですか?数値で測れるんですか?」
——うちの子、よく風邪をひくので免疫力が低いのではと心配です。血液検査で免疫力を測れますか?
お気持ちはよくわかります。まず最初にお伝えしたいのは、医学的に『免疫力』という単一の指標は存在しないということです [1]。免疫システムは非常に複雑で、多くの細胞・臓器・分子が連携して働いています
| 免疫の構成要素 | 役割 |
|---|---|
| 自然免疫(先天性免疫) | 体に侵入した病原体に最初に対応する防御システム。好中球、マクロファージ、NK細胞など [1] |
| 獲得免疫(適応免疫) | 特定の病原体を「記憶」して、次回の感染時に素早く対応。T細胞、B細胞、抗体 [1] |
| 物理的バリア | 皮膚、粘膜、胃酸など。病原体の侵入自体を防ぐ |
| 腸内細菌叢 | 免疫細胞の約70%が腸に集中。腸内環境が免疫に大きく影響 [2] |
このように免疫は一つの数値ではなく、システム全体のバランスです [1]。『免疫力が低い』とか『免疫力を上げる』という表現は、厳密には医学的ではないんです。ただし、このシステム全体が適切に機能するための条件を整えることはできます。それが生活習慣です
ポイント
- 「免疫力」という単一の数値は医学的に存在しない [1]
- 免疫は自然免疫・獲得免疫・物理的バリア・腸内環境の複合システム [1][2]
- 免疫システム全体が適切に機能する条件を整えることが大切
Q2.「免疫のために一番大事な生活習慣は何ですか?」
——食事ですか?運動ですか?何が一番大事なんでしょう?
ひとつだけ挙げるなら、睡眠です [3]。睡眠中に免疫システムのメンテナンスが行われており、睡眠不足は感染症への感受性を明らかに高めます
| 年齢 | 推奨睡眠時間(米国睡眠医学会)[4] |
|---|---|
| 4〜12ヶ月 | 12〜16時間(昼寝含む) |
| 1〜2歳 | 11〜14時間(昼寝含む) |
| 3〜5歳 | 10〜13時間(昼寝含む) |
| 6〜12歳 | 9〜12時間 |
| 13〜18歳 | 8〜10時間 |
Besedovskyらの研究では、十分な睡眠がT細胞の機能を高め、感染症に対する防御力を向上させることが示されています [3]。また、Pratherらの有名な研究では、睡眠時間が6時間未満の成人は7時間以上の人に比べて風邪にかかるリスクが4.2倍高いことが報告されています [5]。子どもでも同様の傾向が示唆されています。夜更かしをやめることが、最もコストゼロで効果的な『免疫力アップ』法です
ポイント
- 睡眠が免疫の土台。睡眠中にT細胞の機能が高まる [3]
- 睡眠6時間未満で風邪のリスクが4.2倍に(成人データ)[5]
- 年齢別の推奨睡眠時間を確認し、夜更かしをやめることが最優先 [4]
Q3.「食事で免疫を高めることはできますか?」
——ヨーグルトがいいとか、ビタミンCがいいとか聞きますが……
特定の食品を食べれば免疫力が上がる、という単純な話ではありません [6]。ただし、免疫システムが正常に機能するためには、様々な栄養素が必要であることは確かです
免疫との関係
- ビタミンA
- 粘膜のバリア機能維持 [6]
- ビタミンC
- 白血球の機能をサポート [7]
- ビタミンD
- 自然免疫・獲得免疫の調節 [8]
- 亜鉛
- T細胞の発達と機能に必須 [6]
- 鉄
- 免疫細胞の増殖に必要 [9]
- 食物繊維
- 腸内細菌叢の多様性を維持 [2]
食品例
- ビタミンA
- にんじん、かぼちゃ、レバー
- ビタミンC
- いちご、ブロッコリー、みかん
- ビタミンD
- 鮭、きのこ類、卵黄
- 亜鉛
- 牡蠣、牛肉、納豆
- 鉄
- 赤身肉、小松菜、ひじき
- 食物繊維
- 野菜、果物、玄米
ポイントは、特定の栄養素を大量に摂ることではなく、バランスよく様々な食品を食べることです [6]。『これを食べれば免疫力アップ』という食品はありませんが、偏食が続くと免疫機能の低下につながりうることは事実です。特にビタミンDと亜鉛の不足は子どもでも意外と多いので、意識してみてください [8]
ポイント
- 特定の食品で「免疫力アップ」はできない [6]
- バランスのよい食事が免疫システムの正常な機能を支える
- ビタミンD、亜鉛、鉄は子どもで不足しやすい。意識的に摂取を [8][9]
Q4.「手洗い・うがいって本当に効果があるんですか?」
——子どもに手洗いを習慣づけようとしていますが、本当に効果があるのか気になります。うがいはどうですか?
手洗いは、感染予防のエビデンスが最も強い生活習慣のひとつです [10]。石けんと水で20秒以上洗うことで、ウイルスや細菌の大部分を除去できます
エビデンスレベル
- 石けんでの手洗い
- 非常に高い [10]
- アルコール消毒
- 高い
- うがい(水うがい)
- 中程度 [11]
- イソジンうがい
- 水うがいと同程度 [11]
コメント
- 石けんでの手洗い
- 呼吸器感染症を約16〜21%減少、下痢を30〜48%減少
- アルコール消毒
- 石けん+水が使えない場合の代替。濃度60%以上
- うがい(水うがい)
- Satomuraらの研究で風邪発症を約40%減少。ただしエビデンスは限定的
- イソジンうがい
- 水うがいを超える効果は示されていない
手洗いのエビデンスは非常に強力です。Rabie & Curtisのメタアナリシスでは、石けんでの手洗いが呼吸器感染症を約16〜21%減少させることが示されています [10]。一方、うがいについては水うがいに一定の効果があるとするSatomuraらの有名なRCT(ランダム化比較試験)がありますが [11]、手洗いほど多くのエビデンスが蓄積されているわけではありません。とはいえ害もなく簡単にできるので、習慣として続ける価値はあります
——適度な運動も効果がありますか?
はい。中等度の運動(外遊び、散歩など)は免疫機能を高めることが知られています [12]。Nieman & Wenkの研究では、定期的な中等度の運動が上気道感染症のリスクと重症度を低下させることが報告されています。ただし、過度な運動は逆に免疫を抑制する場合があるので、子どもの場合は楽しく体を動かす程度で十分です [12]
ポイント
- 手洗いは最強の感染予防策。呼吸器感染症を約16〜21%、下痢を30〜48%減少 [10]
- 水うがいに一定の効果あり。イソジンうがいとの差はない [11]
- 中等度の運動(外遊び)は免疫機能を高める。過度な運動は逆効果 [12]
Q5.「免疫力を上げるサプリは効果がありますか?」
——子ども用の免疫サプリをよく見かけます。飲ませたほうがいいですか?
結論から言うと、バランスのよい食事を摂っている健康な子どもに、免疫サプリは不要です [13]。そして、市販されている多くの『免疫力アップ』サプリの効果は、質の高い臨床試験で十分に実証されていません
| よく謳われる成分 | 実際のエビデンス |
|---|---|
| 乳酸菌・プロバイオティクス | 一部のエビデンスあり。ただし菌株・用量・期間によって結果が異なる [14] |
| ビタミンC大量投与 | 風邪予防効果は否定的。発症後の罹患期間をわずかに短縮する程度 [7] |
| エキナセア | 小児での有効性は実証されていない [15] |
| プロポリス | 質の高いRCTが不足。子どもへの安全性データも限定的 |
唯一の例外はビタミンDです。ビタミンD不足は呼吸器感染症のリスク上昇と関連しており、血中濃度が低い場合にはサプリメントでの補充が推奨される場合があります [8]。ただしこれも、まず食事と日光浴(適度な外遊び)で摂取を目指し、不足が疑われる場合に医師と相談の上で使うのが原則です。サプリにお金をかけるよりも、早寝の習慣とバランスのよい食事にお金と時間をかけるほうが、はるかに効果的です
ポイント
- 健康な子どもに免疫サプリは基本的に不要 [13]
- ビタミンC大量投与の風邪予防効果は否定的 [7]
- ビタミンD不足がある場合のみ、医師と相談の上でサプリを検討 [8]
- サプリよりも睡眠と食事にお金と時間をかけるべき
Q6.「保育園に入ってから毎月風邪をひいています。免疫が弱いのでしょうか?」
——4月に入園してから毎月のように風邪をひいて、もう5回目です。何か問題があるのでしょうか?
これは非常に正常なことです。Vol.31でも詳しくお伝えしましたが、保育園に通い始めの1年間は年に6〜8回の風邪をひくのが平均的です [16]。むしろ、この風邪ラッシュは免疫の『訓練期間』と考えてください
| 項目 | 説明 |
|---|---|
| 入園1年目 | 年6〜8回の風邪は平均的 [16] |
| 入園2年目以降 | 明らかに風邪の回数が減る |
| 理由 | 様々なウイルスに暴露されることで、獲得免疫が「学習」する [1] |
| メリット | 保育園児は就学後の欠席日数が少ないとする研究もある [17] |
子どもは生涯で約200種類以上のウイルスに感染して免疫を獲得していきます [1]。保育園は『免疫の学校』のようなもので、今たくさん風邪をひいていることは、お子さんの免疫システムが一生懸命学習している証拠です。ただし、以下のような場合は免疫不全などの基礎疾患を除外するために受診をお勧めします
| 注意すべきサイン | 対応 |
|---|---|
| 肺炎を年に2回以上 | 小児科受診 |
| 副鼻腔炎を年に4回以上 | 小児科受診 |
| 抗菌薬が2ヶ月以上効かない | 小児科受診 |
| 体重増加不良(成長曲線の逸脱) | 小児科受診 |
| 重症感染症の既往(髄膜炎、骨髄炎等) | 専門医受診 |
ポイント
- 入園1年目の風邪年6〜8回は正常。免疫の「訓練」 [16]
- 入園2年目以降は明らかに風邪が減る [17]
- 成長曲線の逸脱、肺炎の反復などがあれば受診を
まとめ
- 「免疫力」は単一の数値ではない。免疫は複合システムであり、そのバランスを整えることが大切 [1]
- 睡眠が最も重要。年齢別の推奨睡眠時間を確保する [3][4]
- バランスのよい食事で必要な栄養素を摂取。特にビタミンD、亜鉛、鉄を意識 [6][8]
- 手洗いは最強の感染予防策。外遊びなどの中等度の運動も免疫を高める [10][12]
- 「免疫力アップ」サプリの科学的根拠は乏しい。サプリよりも睡眠と食事が先 [7][13]
- 保育園入園後の風邪ラッシュは免疫の訓練。心配しすぎないで [16]
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