愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.158
「次のパンデミック」に備える、新興感染症から子どもを守るために
今号のポイント
- 2新興・再興感染症は今後も起こりうる。COVID-19の経験を「備え」に変えることが大切
- 4子どもの感染対策の基本は変わらない。手洗い・換気・予防接種を日常の習慣に
- 6パンデミック時の子どもの心のケアも忘れずに。正確な情報源を見極める力が家族を守る
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
2020年からのCOVID-19パンデミックは、私たちの生活を一変させました。日常が戻りつつある今だからこそ、「次に備える」ことが大切だと感じています。
新興感染症は今後も必ず出てきます [1]。今号は、基礎知識・子どもへの影響・家庭での備えを、コロナの教訓をもとに整理します。
Q1.「新興感染症って何ですか?再興感染症とはどう違うんですか?」
——ニュースで時々聞く『新興感染症』って、どういう意味ですか?
新興感染症と再興感染症は、それぞれ以下のように定義されています [1]
定義
- 新興感染症
- 新たに認識された、または新たに出現した感染症 [1]
- 再興感染症
- かつて流行していたが一度は制圧された、または減少した後に再び増加している感染症 [1]
例
- 新興感染症
- COVID-19、SARS、MERS、エボラ出血熱
- 再興感染症
- 結核、麻疹、デング熱、百日咳
過去50年間で、30以上の新興感染症が確認されています [1]。その多くは人獣共通感染症(ズーノーシス)、つまり動物から人間に感染するものです。COVID-19のSARS-CoV-2もコウモリ由来と考えられています [2]。地球温暖化、森林開発、国際的な人の移動の増加により、新たな感染症が出現するリスクは今後も高まり続けると予測されています [1]
ポイント
- 新興感染症=新たに出現した感染症。再興感染症=再び増加している感染症 [1]
- 過去50年で30以上の新興感染症が確認されている [1]
- 地球温暖化・森林開発・国際移動の増加で出現リスクは高まっている [1]
Q2.「COVID-19から、子どもの感染症対策として何を学びましたか?」
——コロナの時は本当に大変でした。あの経験から、何を教訓にすればいいですか?
COVID-19は多くの教訓を残しました。特に子どもの感染症対策に関して重要なポイントを整理します [2][3]
| 教訓 | 詳細 |
|---|---|
| 子どもは多くの感染症で軽症だが、例外がある | COVID-19でもMIS-C(小児多系統炎症性症候群)という重篤な合併症が報告された [3] |
| 手洗い・換気の基本が最も効果的 | 特別な対策よりも、基本の徹底が最も重要 [4] |
| ワクチンの迅速な開発と接種が鍵 | mRNAワクチン技術は今後の新興感染症対策にも応用される [2] |
| 子どもの心への影響は大きい | 休校・行動制限が子どものメンタルヘルスに影響を与えた [5] |
| 情報の質が重要 | デマ・誤情報が混乱を招いた。信頼できる情報源の選択が不可欠 [6] |
特に頭に入れておいてほしいのが、MIS-C(小児多系統炎症性症候群)です [3]。COVID-19の感染から2〜6週間後に発熱・腹痛・発疹・心機能低下などが出る病気で、頻度は決して高くはありません(米国の報告で21歳未満10万人あたり約2人 [3])。それでも、新興感染症では子どもに想定外の合併症が起こりうることを教えてくれた一例です
ポイント
- 子どもは多くの感染症で軽症だが、MIS-Cのような予想外の合併症もある [3]
- 手洗い・換気の基本が最も効果的な感染対策 [4]
- 情報の質が家族を守る鍵 [6]
Q3.「家庭での感染対策の基本を改めて教えてください」
——コロナが終わって、手洗いとか消毒とか、つい緩んでしまいました……
パンデミックが終わると対策が緩むのは自然なことです。ただ、感染対策の基本は新興感染症に限らず、すべての感染症に有効です [4]。日常に組み込める対策を改めて整理します
具体的な方法
- 手洗い
- 石けんで20秒以上。帰宅時、食事前、トイレ後
- 換気
- 1〜2時間に1回、5〜10分間の窓開け。対角線上の窓を開けると効果的
- 咳エチケット
- 咳・くしゃみは肘の内側で覆う。ティッシュはすぐゴミ箱へ
- 予防接種
- 定期接種を確実に完了。インフルエンザワクチンも毎年接種
- 適切な受診
- 体調不良時は無理に登園・登校させない
エビデンス
- 手洗い
- 呼吸器感染症を21%減少 [7]
- 換気
- エアロゾル感染のリスクを大幅に低減 [4]
- 咳エチケット
- 飛沫感染の予防
- 予防接種
- VPDの予防に最も効果的
- 適切な受診
- 集団感染の予防
COVID-19で学んだ換気の重要性は、インフルエンザやRSウイルスなど他の呼吸器感染症にも当てはまります [4]。特に冬場は窓を閉め切りがちですが、短時間でも窓を開けて空気を入れ替えることが効果的です
ポイント
- 手洗い・換気・咳エチケットの基本3つを日常の習慣に [4][7]
- 換気はCOVID-19だけでなく、すべての呼吸器感染症に有効 [4]
- 定期接種の完了が感染症全般への最大の備え
Q4.「パンデミック時に子どもの心のケアはどうすればいいですか?」
——コロナの時、子どもが不安定になりました。次に同じことが起きたら、どう対応すればいいですか?
COVID-19パンデミック中、世界的に子どものうつ・不安症状が有意に増加したことが複数の研究で報告されています [5]。休校、友達と会えない、親の不安の伝染など、複合的な要因が影響しました。次のパンデミックに備えて、子どもの心のケアの原則を知っておきましょう
| 原則 | 具体的な対応 |
|---|---|
| 正直に、年齢に合わせて説明する | 「怖い病気が流行っているけど、手洗いしたり、お医者さんが頑張ってくれているから大丈夫だよ」 |
| 日常のルーティンを維持する | 食事・睡眠・遊びの時間をできるだけ普段通りに [5] |
| 感情を受け止める | 「怖いよね」「会えなくて寂しいよね」と感情を否定しない |
| ニュースへの曝露を制限する | 子どもの前でニュースを繰り返し流さない [5] |
| 親自身のメンタルケア | 親の不安は子どもに伝染する。親も自分のケアを |
| 遊びと運動の確保 | 屋内でも体を動かす時間を作る。遊びはストレス発散の最大の武器 |
子どもは大人の反応を見て安心するか不安になるかを決めます [5]。完璧な対応は不要です。『大丈夫だよ』と伝えながら、日常を淡々と続けることが、子どもにとって最大の安心材料になります
ポイント
- パンデミック中の子どものうつ・不安症状は有意に増加した [5]
- 日常のルーティン維持と感情の受容が基本 [5]
- 親自身のメンタルケアも忘れずに。親の安定が子どもの安心
Q5.「正確な情報はどこから得ればいいですか?」
——コロナの時、SNSの情報に振り回されてしまいました。何を信じればいいのかわからなくて……
これは非常に重要な問題です。WHOは誤情報の急速な拡散をインフォデミック(infodemic)と名付けました [6]。正確な情報と誤情報を見分ける力は、パンデミック時の最大の武器です
信頼度
- 厚生労働省
- 高い
- 国立感染症研究所
- 高い
- WHO(世界保健機関)
- 高い
- CDC(米国疾病予防管理センター)
- 高い
- 日本小児科学会
- 高い
- かかりつけ小児科医
- 高い
- SNS・口コミ
- 玉石混交
- 動画・ブログ(匿名)
- 要注意
URL
- 厚生労働省
- https://www.mhlw.go.jp/
- 国立感染症研究所
- https://www.niid.go.jp/
- WHO(世界保健機関)
- https://www.who.int/
- CDC(米国疾病予防管理センター)
- https://www.cdc.gov/
- 日本小児科学会
- https://www.jpeds.or.jp/
- かかりつけ小児科医
- 個別の相談に最適
- SNS・口コミ
- 情報の出典を必ず確認
- 動画・ブログ(匿名)
- 医学的根拠が不明なことが多い
情報を見分けるコツをまとめます
| チェックポイント | 説明 |
|---|---|
| 情報源は明記されているか | 「○○大学の研究によると」等の具体的な出典があるか |
| 他の信頼できるソースでも同じことを言っているか | 一つの情報源だけで判断しない |
| 「絶対」「100%」「これだけで大丈夫」は要注意 | 医学に「絶対」はほぼない |
| 恐怖を煽っていないか | 冷静で具体的な対策を提示しているか |
| 新しい情報か | 感染症の知見は日々更新される |
ポイント
- 厚生労働省、国立感染症研究所、WHO、かかりつけ医が信頼できる情報源 [6]
- SNSの情報は出典を必ず確認。「絶対」「100%」は要注意
- 複数の信頼できるソースで確認する習慣を
Q6.「子どものための備蓄リストを教えてください」
——次のパンデミックに備えて、家に何を準備しておけばいいですか?
COVID-19の経験を踏まえ、子どもがいる家庭向けの備蓄リストをまとめました。パンデミック時に限らず、災害時にも役立ちます [8]
品目
- 医薬品
- 解熱剤(アセトアミノフェン)小児用
- 体温計(予備の電池含む)
- 経口補水液(OS-1等)
- 常備薬(持病がある場合は2週間分以上)
- 衛生用品
- 石けん・ハンドソープ
- アルコール消毒液
- マスク(子ども用サイズ)
- 使い捨て手袋
- おむつ(乳児の場合)
- 食料・飲料
- 水(軟水)
- ミルク(乳児の場合)/ 離乳食
- 常温保存可能な食品(レトルト、缶詰、シリアル等)
- その他
- 母子手帳のコピー
- かかりつけ医・救急連絡先リスト
- 子どもの遊び道具(絵本、パズル、お絵描き等)
目安量
- 医薬品
- 1箱以上
- 1本
- 3〜5本
- 処方医に相談
- 衛生用品
- 2〜3個
- 1〜2本
- 1箱(30〜50枚)
- 1箱
- 2週間分
- 食料・飲料
- 1人1日3L × 7日分
- 2週間分
- 2週間分
- その他
- 1部
- 1部
- 数点
特に強調したいのは解熱剤と経口補水液の備蓄です。パンデミック時には医療機関の受診が困難になることがあります。軽症であれば自宅でのホームケアが基本となりますので、解熱剤と経口補水液は常に家にあるようにしてください。また、母子手帳のコピーを防災バッグに入れておくと、緊急時に接種歴やアレルギー情報をすぐに確認できます
——子どもの遊び道具も入れるんですね
はい。外出や登園ができない期間が長引くと、子どものストレスが大きくなります。電子機器に頼らずに遊べるもの(絵本、パズル、折り紙、お絵描きセットなど)があると、気持ちの安定につながります。備蓄は物だけでなく、心の備えも含むのです
ポイント
- 解熱剤と経口補水液は常に家に備蓄を [8]
- 母子手帳のコピーを防災バッグに。緊急時に接種歴・アレルギー情報が確認できる
- 子どもの遊び道具も備蓄に含める。心の備えも大切
まとめ
- 新興感染症は今後も必ず起こる。地球温暖化・国際移動の増加でリスクは高まっている [1]
- COVID-19からの教訓:基本の感染対策(手洗い・換気)が最も効果的 [4]
- 子どもでもMIS-Cなど予想外の合併症が起こりうる。予防接種の完了が最大の備え [3]
- パンデミック時の子どもの心のケア:日常のルーティン維持と感情の受容が基本 [5]
- 信頼できる情報源(厚生労働省、国立感染症研究所、WHO、かかりつけ医)を押さえておく [6]
- 備蓄リストを作成し、解熱剤・経口補水液・母子手帳のコピーを常備する [8]
あわせて読みたい
- Vol.155「免疫力を高める生活習慣」
- Vol.154「抗菌薬適正使用」
- Vol.156「予防接種の副反応への対応」
- Vol.70「子どものための防災チェックリスト」
ご質問・ご感想
「コロナの時の経験をどう活かしたらいいか考えていた」「備蓄リストが参考になった」など、ご感想やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。次の感染症に備えて、今できることを一つずつ始めましょう。
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