コンテンツへスキップ
MINATON
算数障害(ディスカリキュリア)、数の概念の困難と支援方法
Vol.110発達

算数障害(ディスカリキュリア)、数の概念の困難と支援方法

- 「算数が苦手」と「算数障害」は異なります

発達全年齢9
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 8·Q&A 5問収録

プロフィール →

この記事のポイント

  • - 「算数が苦手」と「算数障害」は異なります
  • - 数の基本的な感覚(数量感覚)に困難があるのが特徴
  • - 読字障害と同じくらい頻度は高いが、見過ごされやすい

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.110

算数障害(ディスカリキュリア)、数の概念の困難と支援方法

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。 Vol.108・109に続き、学習障害シリーズの最後は算数障害(ディスカリキュリア)です。 「計算が苦手」なお子さんは多いですが、ディスカリキュリアは単なる苦手を超えて、数の概念そのものを掴むことに困難がある状態です。読字障害に比べて研究は遅れていますが、近年急速に理解が進んでいます。

Q1.「算数障害とはどんな状態ですか?」

——小学3年生の娘は国語は得意なのに、算数だけ極端にできません。繰り上がりの足し算もまだ指を使います。

ディスカリキュリアは、知的能力に問題がないにもかかわらず、数や計算の習得・使用に著しい困難がある状態です [1][2]

学齢期の子どもの約3〜7%に見られるとされ、読字障害と同程度に多い障害です。しかし、読字障害に比べて認知度が低く、『算数が苦手な子』として見過ごされていることが多いのが現状です [2]。

特徴的なのは、数の基本的な感覚(数量感覚:number sense)そのものに困難がある点です。」

困難の領域具体例
数量感覚5と8のどちらが多いか直感的に分かりにくい
数の大小比較数直線上での位置関係が把握しにくい
計算の自動化繰り返し練習しても九九が定着しない
暗算指や筆算に頼り、暗算が極端に苦手
文章問題数的関係を文章から読み取れない
時間・お金の概念時計が読めない、お釣りの計算ができない

指を使って計算すること自体は、低学年では正常な発達過程です。しかし、3年生以降も指を使い続け、計算の自動化(素早く正確に計算できること)が進まない場合は、ディスカリキュリアの可能性を考えます [2]

ポイント

  • 「算数が苦手」と「算数障害」は異なります
  • 数の基本的な感覚(数量感覚)に困難があるのが特徴
  • 読字障害と同じくらい頻度は高いが、見過ごされやすい

Q2.「算数障害の原因は何ですか?」

——算数の塾に通わせても全く伸びません。教え方が悪いのでしょうか?

教え方の問題ではありません。ディスカリキュリアの原因は、脳における数量処理の神経基盤の違いにあります [3][4]

脳の頭頂間溝(IPS: intraparietal sulcus) という領域が、数量の処理に重要な役割を果たしていることが分かっています。ディスカリキュリアのある方では、この領域の構造や機能に違いがあることが脳画像研究で報告されています [3]。」

原因に関する仮説内容
数量表象の欠損仮説数の大きさを直感的に捉える能力(近似数量システム)に弱さがある
アクセス障害仮説数量の概念はあるが、数字(記号)との結びつけが困難
ワーキングメモリ仮説計算手順を保持しながら処理する力が弱い
複数障害モデル上記の複数が組み合わさっている

ディスレクシアと同様、遺伝的要因も関わっています。双生児研究では、算数能力の個人差の約60%が遺伝的要因で説明されるとされています [4]

また、ディスカリキュリアは他の発達障害との合併も多く、読字障害との合併率は約30〜40%、ADHDとの合併も20〜30%と報告されています。」

ポイント

  • 塾に通っても改善しない場合、教え方ではなく脳の特性を疑う
  • 遺伝的要因が関わっており、練習量だけでは解決しない
  • 他の発達障害との合併が多い

Q3.「算数障害はどうやって評価しますか?」

——算数が苦手なだけなのか、障害なのか、どう判断するのですか?

算数障害の評価では、以下のような検査を組み合わせます [2][5]

内容

WISC-V
知能検査
標準学力検査
算数学力の評価
KABC-II 習得尺度
算数の習得度
数量処理課題
数の大小比較、数直線課題
計算流暢性検査
制限時間内の計算数

評価ポイント

WISC-V
全般的知能と認知プロフィール
標準学力検査
学年相応の学力との差
KABC-II 習得尺度
数的推理・計算能力
数量処理課題
数量感覚の評価
計算流暢性検査
計算の自動化の程度

判断のポイントは以下の3つです。

  1. 2

    知的能力との乖離:全般的な知能は正常範囲なのに、算数だけが著しく低い

  2. 4

    指導への反応:適切な指導を受けても改善が乏しい

  3. 6

    日常生活への影響:学業だけでなく、お金の管理、時間の把握など日常にも支障がある

単に『算数が苦手』なだけでなく、同年齢の子どもと比べて著しく困難であること、そして適切な指導にもかかわらず改善が見られないことが、診断の重要なポイントです [5]。」

ポイント

  • 算数テストの点数だけでなく、数量感覚や計算の自動化を評価する
  • 「苦手」と「障害」の線引きは、困難の程度と日常生活への影響で判断
  • 検査結果から「何が苦手で何が得意か」を明確にする

Q4.「算数障害にはどんな支援が効果的ですか?」

——ドリルを何冊もやらせましたが変わりません。どうすればいいでしょうか?

計算ドリルの反復だけでは、ディスカリキュリアのお子さんには効果が限られます。数の概念を視覚的・具体的に理解させるアプローチが重要です [5][6]

  1. 2
    具体物の操作(CRA アプローチ)

方法

C(Concrete:具体)
実物を使う
R(Representational:表象)
図や絵を使う
A(Abstract:抽象)
数字と記号を使う

C(Concrete:具体)
おはじき、ブロック、お金
R(Representational:表象)
数直線、丸図、テープ図
A(Abstract:抽象)
式と計算

この『具体→半具体→抽象』の段階を丁寧に踏むことが大切です。いきなり数字だけの計算をさせるのではなく、おはじきやブロックを使って数の操作を体験させます [6]

  1. 2
    数量感覚を育てる活動
  • サイコロ遊び(点の数を瞬時に把握する練習)
  • 10のまとまりを意識する活動
  • 日常生活での数の体験(お買い物ごっこ、料理の計量)
  • トランプやボードゲーム
  1. 2
    計算の補助手段
補助手段用途
九九表九九が覚えられない場合の参照ツール
数直線数の大小関係・計算の視覚化
電卓計算の自動化が困難な場合の代替手段
グラフ用紙筆算の桁揃えの補助
計算アプリゲーム形式での反復練習
  1. 2
    合理的配慮の例
  • テスト時の電卓使用許可
  • テスト時間の延長
  • 問題数の調整
  • 図や具体物の使用許可

ここで大切な考え方があります。計算の自動化が苦手なお子さんに電卓を使わせることは、ズルではありません。 計算力と数学的思考力は別物です。電卓を使うことで、計算のストレスから解放され、問題解決や論理的思考に集中できるようになります [6]

ポイント

  • 具体物→図→数字の段階を丁寧に踏む
  • 計算ドリルよりも数量感覚を育てる活動が効果的
  • 電卓は「ズル」ではなく「眼鏡」と同じ補助ツール

Q5.「算数が苦手なことは将来にどう影響しますか?」

——算数ができないと将来困りますよね。どこまで心配すればよいですか?

率直にお答えすると、数の困難は日常生活に影響する場面があるのは事実です。お金の管理、時間の把握、料理の計量、スケジュール管理など、数は生活の至るところに関わっています [7][8]

しかし、以下の2つの対策で、困難を大幅に軽減できます。」

  1. 2
    テクノロジーの活用
場面使えるツール
お金の管理電子マネー、家計簿アプリ
時間管理デジタル時計、タイマーアプリ、リマインダー
買い物電卓アプリ、比較計算アプリ
料理計量スプーン、デジタルスケール
  1. 2
    補償戦略の獲得
  • 暗算が苦手→筆算やメモを活用
  • 概算で「だいたいこれくらい」を把握する練習
  • 視覚的なツール(グラフ、チャート)で数的情報を整理

数学的な能力と他の知的能力は独立しています。算数が苦手でも、言語能力、芸術的感性、社会性、創造性など、他の能力を活かして社会で活躍できます。

大切なのは、算数の困難のために自己肯定感を失わせないことです。算数障害があっても、適切な支援とテクノロジーの活用で、自立した生活は十分に可能です [8]。」

ポイント

  • 数の困難は日常生活にも影響するが、テクノロジーで補える
  • 「算数ができない=頭が悪い」ではない
  • 得意な分野を伸ばし、苦手な分野は道具で補う発想が大切

今号のまとめ

  • ディスカリキュリアは数量感覚そのものに困難がある状態で、学齢期の3〜7%に見られる
  • 脳の数量処理に関わる領域の特性が原因で、練習量だけでは解決しない
  • 具体物→図→数字の段階的な指導が効果的
  • 電卓やテクノロジーの活用は「ズル」ではなく「公平にするためのツール」
  • 算数の困難で自己肯定感を失わせないことが最も大切

あわせて読みたい

  • Vol.107「学習障害(LD)の基礎」
  • Vol.108「読字障害(ディスレクシア)」
  • Vol.109「書字障害(ディスグラフィア)」

ご質問・ご感想

お子さんの算数の困難についてお悩みのことがありましたら、お気軽にご相談ください。次回の Vol.111 では「感覚過敏と感覚鈍麻」についてお話しします。

愛育病院 小児科 おかもん先生

本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。

この記事は役に立ちましたか?

※ この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さんの症状が心配な場合は、かかりつけの小児科医にご相談ください。

関連記事