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アトピー性皮膚炎の最新治療、「塗る」から「治す」時代へ
Vol.164アレルギー

アトピー性皮膚炎の最新治療、「塗る」から「治す」時代へ

プロアクティブ療法(症状が落ち着いた後も予防的に塗り続ける方法)で再燃を大幅に減らせる

アレルギー全年齢17
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 12·Q&A 6問収録

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この記事のポイント

  • プロアクティブ療法(症状が落ち着いた後も予防的に塗り続ける方法)で再燃を大幅に減らせる
  • ステロイド以外の選択肢(タクロリムス軟膏、JAK阻害薬外用、生物学的製剤)が小児にも使える時代に
  • すべての治療の土台は「毎日の保湿」。スキンケアなくして治療なし

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.164

アトピー性皮膚炎の最新治療、「塗る」から「治す」時代へ

今号のポイント

  1. 2
    プロアクティブ療法(症状が落ち着いた後も予防的に塗り続ける方法)で再燃を大幅に減らせる
  2. 4
    ステロイド以外の選択肢(タクロリムス軟膏、JAK阻害薬外用、生物学的製剤)が小児にも使える時代に
  3. 6
    すべての治療の土台は「毎日の保湿」。スキンケアなくして治療なし

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

今回のテーマはアトピー性皮膚炎の最新治療です。

Vol.13では「ステロイド外用薬は正しく使えば安全」、Vol.17では「乳児湿疹とアトピーの見分け方」をお伝えしました。今号はその先、ステロイド以外にどんな治療があるのか、そして「治す」ための戦略としてのプロアクティブ療法について、最新の知見をお届けします。

「ステロイドだけでは限界を感じている」「新しい薬が気になる」というご家庭にとって、治療の見通しが明るくなるお話です。

Q1.「プロアクティブ療法って何ですか? 今までの治療と何が違うんですか?」

——湿疹が出たらステロイドを塗って、治ったらやめて、また出たら塗って……の繰り返しです。これでいいんでしょうか?

その方法はリアクティブ療法(症状が出てから対処する方法)と呼ばれます。悪くはないのですが、アトピー性皮膚炎の場合、見た目がきれいになっても皮膚の奥にはまだ炎症がくすぶっていることが多いんです [1]。だから、やめるとまた悪化する。この繰り返しを断ち切るのがプロアクティブ療法です

——具体的にはどうするんですか?

まず、ステロイド外用薬でしっかり炎症を消す(寛解導入)。見た目がきれいになった後も、週に2〜3回、以前湿疹があった部位にステロイドやタクロリムス軟膏を予防的に塗り続ける。これがプロアクティブ療法です [1][2]

治療法考え方塗るタイミング再燃リスク
リアクティブ療法症状が出てから対処湿疹が出たら塗る高い(繰り返しやすい)
プロアクティブ療法再燃を予防する見た目がきれいでも週2〜3回塗り続ける大幅に低下 [1][2]

Wollenbergらのメタアナリシスでは、プロアクティブ療法により再燃までの期間が有意に延長し、再燃率が大幅に低下することが示されています [2]。Vol.13で『消火器の発想で初期消火』とお伝えしましたが、プロアクティブ療法は消火後の"見回り"に当たります。くすぶりを見逃さないことが大切なんです

ポイント

  • 見た目がきれいでも皮膚の奥に炎症がくすぶっていることがある [1]
  • プロアクティブ療法は週2〜3回の予防的塗布で再燃を防ぐ [2]
  • 「消火」の後の「見回り」がプロアクティブ療法の本質

Q2.「ステロイド外用薬のランクはどう使い分けるんですか?」

——Vol.13で5段階のランクがあると教えてもらいましたが、うちの子にはどのランクが合っているんでしょうか?

部位と重症度で使い分けるのが原則です [3]。お子さんの場合、特に注意すべきは部位による皮膚の薄さの違いです。同じランクのステロイドでも、薬の吸収率は部位によって大きく異なります [3]

吸収率(前腕を1とした比率)

まぶた
約42倍
頬・額
約6〜13倍
約6倍
腋窩・陰部
約3.6倍
体幹
約1〜2倍
手足
約0.8〜1倍
手のひら・足の裏
約0.14〜0.83倍

推奨ランク

まぶた
ウィーク〜マイルド
頬・額
マイルド
マイルド
腋窩・陰部
マイルド〜ストロング(短期間)
体幹
ストロング
手足
ストロング〜ベリーストロング
手のひら・足の裏
ベリーストロング

——まぶたは前腕の42倍も吸収するんですか!

はい。ですから顔、特に目の周りにはマイルドクラス以下を使うのが原則です [3]。逆に、手のひらや足の裏は吸収が悪いので、やや強めのランクが必要になることがあります。重症度別の目安もお伝えしますね [3][4]

症状の目安

軽症
乾燥・軽い赤み
中等症
赤み・少しジュクジュク
重症
広範囲の赤み・浸出液・苔癬化
最重症
全身の強い炎症

治療の基本

軽症
保湿 + マイルドクラス
中等症
ストロングクラス + 保湿
重症
ベリーストロング + 専門医へ
最重症
専門医による集中治療(入院含む)

大切なのは、最初に十分な強さのステロイドでしっかり消すこと。弱いランクで不十分な治療を続けるほうが、結果的にステロイドの総使用量が増えてしまいます [4]

ポイント

  • ステロイドの吸収率は部位によって最大42倍の差がある [3]
  • 顔にはマイルド以下、体幹にはストロングが基本 [3]
  • 最初に十分な強さで消すことが結果的にステロイド総量を減らす [4]

Q3.「ステロイド以外の塗り薬にはどんなものがありますか?」

——ステロイドをなるべく減らしたいのですが、他に選択肢はあるんですか?

はい、現在はステロイド以外の外用薬が複数あります。ステロイドを減らす"出口戦略"としても重要な薬です [4][5][6]

薬剤名一般名対象年齢特徴注意点
プロトピック軟膏タクロリムス2歳以上(0.03%製剤)ステロイドと異なる作用機序。皮膚萎縮なし [5]塗り始めにヒリヒリ感。顔・首に特に有用
コレクチム軟膏デルゴシチニブ(JAK阻害薬)生後6ヶ月以上新しいタイプの抗炎症薬。ヒリヒリ感が少ない [6]2020年発売。長期安全性データ蓄積中
モイゼルト軟膏ジファミラスト(PDE4阻害薬)2歳以上ステロイド・タクロリムスと異なる作用。刺激感が少ない [7]2022年発売。比較的新しい薬

——プロトピック軟膏はヒリヒリするって聞いたのですが……

はい、塗り始めの数日間はヒリヒリ・ほてり感を感じることがあります。ただし、これは炎症が強い部位に塗った場合に起きやすく、炎症をステロイドで十分に抑えた後に切り替えると軽減されます [5]。タクロリムスはカルシニューリン阻害薬に分類され、ステロイドのような皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)の副作用がないため、長期使用が必要な顔や首の維持療法(プロアクティブ療法)に特に適しています [5]

——JAK阻害薬のコレクチム軟膏は赤ちゃんにも使えるんですか?

はい。コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)は生後6ヶ月から使用可能です [6]。JAK(ヤヌスキナーゼ)というかゆみや炎症のシグナルを伝える酵素を阻害する薬で、ステロイドともタクロリムスとも異なる新しい作用機序です。ヒリヒリ感が少ないのが特徴で、タクロリムスの刺激が気になるお子さんにも使いやすいです [6]

ポイント

  • タクロリムス(プロトピック): 2歳以上。皮膚萎縮なし。顔・首の維持療法に最適 [5]
  • デルゴシチニブ(コレクチム): 生後6ヶ月以上。ヒリヒリ感が少ない新しい選択肢 [6]
  • ジファミラスト(モイゼルト): 2歳以上。刺激感が少ない [7]
  • ステロイドで消火 → 非ステロイド外用薬で維持が出口戦略

Q4.「注射の治療(生物学的製剤)は子どもにも使えるんですか?」

——テレビで"注射で治すアトピー治療"を見ました。子どもにも使えるんですか?

それはデュピルマブ(商品名: デュピクセント)のことですね。2018年に成人のアトピー性皮膚炎に対して承認されて以来、適応が広がっており、現在は生後6ヶ月以上のお子さんにも使えるようになっています [8][9]

——赤ちゃんにも使えるんですか! どんな薬なんですか?

デュピルマブは生物学的製剤と呼ばれるタイプの注射薬です。アトピー性皮膚炎の炎症に関わるIL-4(インターロイキン4)とIL-13という物質のはたらきをピンポイントでブロックします [8]。従来の治療で十分にコントロールできない中等症〜重症のアトピー性皮膚炎が対象です

項目内容
薬剤名デュピクセント(デュピルマブ)[8]
投与方法皮下注射(2〜4週間ごと)[8]
対象年齢生後6ヶ月以上(既存治療で効果不十分な中等症〜重症)[9]
効果16週時点でEASI-75(症状75%改善)達成率: 約67〜70%(6〜11歳、TCS併用)[8][10]
主な副作用注射部位反応、結膜炎 [8]
費用高額だが高額療養費制度・小児医療費助成の対象

小児を対象とした臨床試験(LIBERTY AD PEDS試験)では、6〜11歳の重症アトピー性皮膚炎のお子さんに対して、デュピルマブ+外用ステロイド併用群は16週時点でEASI-75達成率が約67〜70%(プラセボ+外用ステロイド群では約27%)と大きく改善しました [9][10]。その後、生後6ヶ月〜5歳にも適応が広がっています [9]

——うちの子にも使えますか?

デュピルマブはステロイド外用薬やタクロリムス軟膏など既存の治療で十分にコントロールできない場合に検討する治療です [8]。いきなり使うものではなく、外用治療をきちんと行った上で、それでも難しい場合に専門医が判断します。まずは今の治療をしっかり続けることが大前提です

ポイント

  • デュピルマブ(デュピクセント)は生後6ヶ月以上で使用可能な生物学的製剤 [9]
  • IL-4/IL-13をブロックし、中等症〜重症のアトピーに高い効果 [8][10]
  • 既存治療で不十分な場合に専門医が判断。いきなり使う薬ではない
  • 高額だが小児医療費助成の対象となるケースが多い

Q5.「いろいろな薬があるのはわかりましたが、スキンケアはどのくらい大切ですか?」

——新しい薬ができても、やっぱり保湿は続けなきゃダメですか?

保湿はすべての治療の土台です。どんなに優れた薬を使っても、保湿を怠ると効果は半減します [4][11]

——どのくらいの量を、どのくらいの頻度で塗ればいいんですか?

基本ルールをまとめますね [4][11]

項目推奨
頻度1日2回以上(朝と入浴後が基本)[11]
ティッシュが肌にくっつくくらい(FTUを目安に)[4]
タイミング入浴後5分以内が最も効果的 [11]
入浴のコツぬるめのお湯(38〜40℃)、石鹸は泡立てて優しく、ゴシゴシ洗わない [11]
保湿剤の種類ヘパリン類似物質(ヒルドイド)、白色ワセリン、セラミド配合クリームなど [4]

保湿がなぜ大切かというと、アトピー性皮膚炎のお子さんの肌はバリア機能(セラミドや天然保湿因子)が生まれつき弱い傾向があります [11][12]。このバリアの"穴"を保湿剤で埋めることで、外からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぎます。Vol.17でお話しした経皮感作(荒れた肌から食物アレルゲンが侵入してアレルギー体質になる現象)の予防にもつながります

日本の研究(Horimukai et al., 2014)では、アトピーのリスクが高い新生児に生まれてすぐから毎日保湿剤を塗り続けたグループは、塗らなかったグループに比べてアトピー性皮膚炎の発症が約32%低下したと報告されています [12]

ポイント

  • 保湿はすべての治療の土台。薬だけでは不十分 [4][11]
  • 入浴後5分以内に保湿。1日2回以上が基本 [11]
  • 生まれてすぐからの保湿でアトピー発症が約32%低下した研究あり [12]
  • 保湿は経皮感作の予防=食物アレルギー予防にもつながる

Q6.「うちの子の治療、今後どう進めていけばいいですか?」

——薬の選択肢が増えたのはありがたいですが、治療の全体像がイメージしにくくて……

アトピー性皮膚炎の治療はステップアップ方式です。軽症から重症に向かって、治療を段階的に強化していきます [4]

治療内容

Step 1
保湿 + マイルドクラスのステロイド外用
Step 2
保湿 + ストロングクラスのステロイド外用 + プロアクティブ療法
Step 3
Step 2 + タクロリムス/JAK阻害薬外用の併用
Step 4
Step 3 + デュピルマブ(生物学的製剤)or シクロスポリン

対象

Step 1
軽症
Step 2
中等症
Step 3
中等症〜重症
Step 4
重症〜最重症

大切なのは、Step 1をしっかりやらないまま"効かない"と判断しないことです。保湿の量が足りない、ステロイドの塗り方が不十分、プロアクティブ療法をしていない、こうした"治療の穴"を埋めるだけで大きく改善するお子さんはたくさんいます [4]

そして、もう一つ大切なことがあります。アトピー性皮膚炎は"治す"のではなく"うまく付き合う"という視点も持っていただきたい。適切なスキンケアと治療で症状をコントロールしながら、お子さんがかゆみに邪魔されず、ぐっすり眠れて、元気に遊べる生活を送れること。それが治療のゴールです [4]

ポイント

  • 治療はステップアップ方式。軽症→重症に応じて段階的に強化 [4]
  • まずStep 1〜2をきちんとやりきることが最優先
  • 治療のゴールは「かゆみに邪魔されず、ぐっすり眠れて、元気に遊べる」こと

まとめ

  • プロアクティブ療法(寛解後も週2〜3回予防的に塗布)で再燃を大幅に減らせる [1][2]
  • ステロイド外用薬は部位と重症度に応じてランクを使い分ける。顔にはマイルド、体幹にはストロング [3]
  • ステロイド以外の選択肢: タクロリムス(2歳〜)、デルゴシチニブ(生後6ヶ月〜)、ジファミラスト(2歳〜) [5][6][7]
  • 重症例にはデュピルマブ(生後6ヶ月〜)。既存治療で不十分な場合に専門医が判断 [8][9]
  • すべての治療の土台は毎日の保湿。入浴後5分以内、1日2回以上 [4][11]
  • 治療はステップアップ方式。まず基本治療をしっかりやりきることが最優先 [4]

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