愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.73
【数字で見る】「1歳半で有意語ゼロの子は約15%」、うちの子、言葉が遅い?
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。 今日は「数字」からお話を始めます。
今日の数字
約15%
1歳6ヶ月の時点で、意味のある言葉(有意語)がまだ出ていない子の割合 [1][2]
この数字、多いと思いますか? 少ないと思いますか?
1歳半健診の待合室で、他のお子さんが「ワンワン」「ママ」と話しているのを見て、「うちの子はまだ一言も出ていないのに……」と不安になった経験はありませんか? 今回は、子どもの言葉の発達について、数字とエビデンスをもとにお伝えします。
この数字、どう読む?
背景①: 言葉の発達は個人差が非常に大きい
子どもの発達のなかで、言葉の獲得ほど個人差が大きいものはないと言っても過言ではありません。歩き始める時期が11〜15ヶ月程度の幅であるのに対し、初語の時期は8ヶ月〜18ヶ月以上と非常に幅広いのです [1]。
Fenson et al.(2007)による大規模な標準化研究「MacArthur-Bates Communicative Development Inventories(CDI)」では、以下のようなデータが報告されています [1]。
年齢別 発語の目安(CDIデータより):
発達の目安
- 0〜4ヶ月
- クーイング(「あー」「うー」)
- 4〜6ヶ月
- 喃語(なんご)の開始(「ばばば」「だだだ」)
- 8〜12ヶ月
- 指差しの出現、身振りの増加
- 10〜15ヶ月
- 初語(有意語)の出現(「ママ」「ワンワン」)
- 12〜18ヶ月
- 語彙数 3〜50語程度
- 18〜24ヶ月
- 語彙の爆発期(vocabulary spurt)
- 18〜24ヶ月
- 二語文の出現(「ワンワン いた」「パパ バイバイ」)
- 24〜36ヶ月
- 三語文以上(「ママ おちゃ ちょうだい」)
- 3歳以降
- 会話が成立する
補足
- 0〜4ヶ月
- 母音を中心とした発声
- 4〜6ヶ月
- 子音+母音の繰り返し(規準喃語)
- 8〜12ヶ月
- 言葉の前段階として非常に重要 [3]
- 10〜15ヶ月
- 中央値は約12ヶ月 [1]
- 12〜18ヶ月
- 個人差が極めて大きい時期
- 18〜24ヶ月
- 50語を超えると急速に増加 [1]
- 18〜24ヶ月
- 50語以上の語彙が前提 [1]
- 24〜36ヶ月
- 文法の発達が進む
- 3歳以降
- 約1,000語の語彙 [4]
ここで注目していただきたいのは、各段階の年齢の幅の広さです。例えば初語が出る時期は「10〜15ヶ月」ですが、これは中央値が12ヶ月程度という意味であり、15ヶ月でまだ初語が出ていなくても必ずしも異常ではありません [1]。
1歳6ヶ月時点の語彙数の分布:
| パーセンタイル | 産出語彙数(話す言葉の数) |
|---|---|
| 10パーセンタイル | 約0〜5語 |
| 25パーセンタイル | 約10〜15語 |
| 50パーセンタイル(中央値) | 約40〜50語 |
| 75パーセンタイル | 約80〜100語 |
| 90パーセンタイル | 約150語以上 |
(出典: Fenson et al., 2007 [1]; 日本語版データは小椋ら, 2016 [2] を参照)
つまり、1歳半の時点で0〜5語しか話さない子が10人に1人以上いるのは、統計的に正常な範囲内のバリエーションなのです。
背景②: 「Late Talker(遅咲きタイプ)」の80%は自然に追いつく
発語が遅い子どものうち、他の発達領域(理解力、社会性、運動など)に問題がないケースは「Late Talker(遅咲きタイプ)」と呼ばれます [5]。
Late Talkerの定義は一般的に以下の通りです [5][6]:
- 18〜24ヶ月の時点で産出語彙が50語未満
- または 二語文がまだ出ていない(24ヶ月時点)
- ただし、理解語彙(わかっている言葉)や非言語コミュニケーション(指差し、身振り)は年齢相応
このLate Talkerに関する重要なエビデンスがあります。
Rescorla(2011)の縦断研究 [4]:
| 時期 | Late Talkerの言語能力 |
|---|---|
| 2歳時点 | 語彙数が同年齢の下位10%以内 |
| 3歳時点 | 約50%が正常範囲に追いつく |
| 4〜5歳時点 | 約70〜80%が正常範囲に追いつく |
| 学齢期 | 多くが日常生活に支障なし。ただし一部は読み書きに弱さが残る可能性 |
つまり、Late Talkerの大多数は、特別な介入をしなくても自然に追いつくのです [5][6]。これは保護者にとって非常に心強いデータです。
ただし、「80%は大丈夫だから何もしなくていい」という意味ではありません。残りの20%は、言語発達障害やその他の発達上の課題を抱えている可能性があります [7]。大切なのは、どの子が自然に追いつく「遅咲きタイプ」で、どの子が支援を必要としているのかを見極めることです。
背景③: 発語数だけでなく「理解語彙」が重要
言葉の発達を評価する上で、最も重要なポイントのひとつが、「話す言葉の数」だけでなく「理解している言葉の数」を見ることです [1][3]。
産出語彙 vs 理解語彙:
産出語彙(話す言葉)
- 定義
- 自分から発する言葉
- 発達の順序
- 遅い(後から増える)
- 1歳時点の目安
- 数語
- 臨床的意義
- 個人差が非常に大きく、単独では発達の指標にしにくい
理解語彙(わかっている言葉)
- 定義
- 聞いてわかる言葉
- 発達の順序
- 早い(先に増える)
- 1歳時点の目安
- 50〜100語以上 [1]
- 臨床的意義
- 産出語彙よりも予後の指標として信頼性が高い [3][8]
つまり、「まだ話さない」ことよりも「理解していない」ことのほうが、臨床的にはより注意が必要なのです [3]。
理解語彙がしっかりある場合のサイン:
- 「ゴミ箱に捨ててきて」「パパに渡して」などの簡単な指示に従える
- 「ワンワンはどれ?」と聞くと指差しで答えられる
- 名前を呼ぶと振り向く
- 「バイバイ」「ちょうだい」などの社会的な言葉に適切に反応する
これらができていれば、たとえ発語が少なくても、言葉の「入力回路」は育っていると考えることができます [3]。
日本の現状
1歳半健診での確認項目
日本の1歳6ヶ月児健康診査は、母子保健法に基づいて全国の市区町村で実施されています [9]。言語に関しては、以下のような項目が確認されます。
1歳6ヶ月健診の言語関連チェック項目 [9]:
| チェック項目 | 確認の意図 |
|---|---|
| 有意語はあるか(「ママ」「ブーブー」など) | 産出語彙の発達 |
| 簡単な指示に従えるか(「〇〇持ってきて」) | 理解語彙の発達 |
| 指差しをするか | 共同注意・コミュニケーション意欲 |
| 名前を呼んで振り向くか | 聴覚・社会的反応 |
| 絵本の絵を指差すか | 認知・言語理解 |
ここで重要なのは、1歳半健診は「異常を確定する場」ではなく、「フォローが必要な子を早期に見つける場」だということです [9]。健診で「言葉がゆっくりですね」と言われても、それは「問題がある」という診断ではなく、「少し見守りましょう」というフォローの提案です。
日本語版マッカーサー乳幼児言語発達質問紙(JCDIs)
日本では、Fenson et al.のCDIを日本語に翻訳・標準化した「日本語版マッカーサー乳幼児言語発達質問紙(JCDIs)」が利用されています [2]。
対象年齢
- JCDIs「語と身振り」
- 8〜18ヶ月
- JCDIs「語と文法」
- 16〜36ヶ月
内容
- JCDIs「語と身振り」
- 理解語彙、産出語彙、身振り
- JCDIs「語と文法」
- 産出語彙、文の複雑さ
日本語版のデータでも、発語の個人差が非常に大きいことが確認されています [2]。日本語は英語と比べて語の区切りがわかりにくい(英語のように単語がスペースで区切られない)ため、子どもが「語」を獲得するプロセスが異なる可能性も指摘されています [2][10]。
受診すべきサイン、「心配したほうがいい遅れ」の見分け方
発語の遅れの多くは「個人差の範囲」ですが、以下のようなサインがある場合は、小児科や発達の専門機関への相談をお勧めします [3][7][11]。
要注意サイン:
心配なサイン
- 12ヶ月
- 喃語がない、または非常に少ない
- 12ヶ月
- 指差しをまったくしない
- 12ヶ月
- 名前を呼んでも振り向かない
- 16ヶ月
- 有意語がゼロ
- 18ヶ月
- 理解語彙もほとんどない(指示に従えない)
- 18ヶ月
- 他者への関心が薄い、模倣をしない
- 24ヶ月
- 産出語彙が10語未満
- 24ヶ月
- 二語文がまったく出ない
- どの年齢でも
- 以前できていた言葉が消える(言語の退行)
なぜ心配か
- 12ヶ月
- 発声の発達の遅れ
- 12ヶ月
- 共同注意の発達(ASDのスクリーニング項目)[11]
- 12ヶ月
- 聴覚の問題 or 社会的反応の遅れ
- 16ヶ月
- 表出言語の遅れ
- 18ヶ月
- 言語理解の遅れ(Late Talkerより注意が必要)
- 18ヶ月
- 社会性の発達の遅れ [11]
- 24ヶ月
- 明らかな表出言語の遅れ [7]
- 24ヶ月
- 文法発達の遅れ
- どの年齢でも
- 早急な評価が必要 [11]
特に重要な3つのサイン(赤信号):
- 2指差しがない(12ヶ月以降):指差しは「あれを見て」「あれが欲しい」という他者とのコミュニケーション意欲の表れであり、言語発達の重要な前駆サインです [3][11]
- 4名前に振り向かない:聴覚の問題を除外する必要があります。聴力に問題がないのに振り向かない場合は、社会的反応の評価が必要です [11]
- 6言葉の退行(折れ線現象):一度出ていた言葉が消える場合は、自閉スペクトラム症(ASD)やその他の疾患の可能性があり、早急な評価が必要です [11]
保護者ができること
言葉の発達を促すために、家庭でできることをまとめます。これらはすべての子どもに有効であり、Late Talkerのお子さんには特に効果的です [12][13]。
1. 「語りかけ」を増やす
やり方:
- 子どもの目を見て、ゆっくり、はっきり話す
- 子どもが見ているもの・やっていることを言葉にしてあげる(「わんわん いるね」「赤い車だね」)
- 子どもの発声や喃語に応答する(「あーあー」→「そうだねー」)
エビデンス: Hart & Risley(1995)の研究では、家庭での語りかけの量が子どもの語彙発達を強く予測することが示されています [14]。ただし、量だけでなく質(応答性・双方向性)が重要であることが後の研究で明らかになっています [12]。
2. テレビ・スマホの「つけっぱなし」を減らす
やり方:
- バックグラウンドテレビ(BGテレビ)をオフにする
- スクリーンを使う場合は一緒に見て、話しかけながら見る
エビデンス: Christakis et al.(2009)の研究では、テレビが付いている環境では、親子の会話量が有意に減少することが示されています [15]。テレビが悪いのではなく、テレビによって親子の対話が減ることが問題なのです。
親の発話量
- テレビなし
- 多い
- BGテレビあり
- 有意に減少
- 一緒にテレビを見る
- 中程度
子どもへの影響
- テレビなし
- 語りかけが増え、言語入力が豊富
- BGテレビあり
- 言語入力が減り、注意も分散 [15]
- 一緒にテレビを見る
- 共視聴ならば悪影響は軽減
3. 読み聞かせを日課にする
やり方:
- 0歳からOK。内容を「理解」させる必要はなく、声を聞かせることが大切
- 子どもが絵を指差したら「そう、ネコさんだね」と応じる
- 毎日同じ絵本でも大丈夫。繰り返しが言語学習を促進する [13]
エビデンス: Duursma et al.(2008)のレビューでは、乳幼児期の読み聞かせが語彙発達と読解力を促進することが示されています [13]。特に対話的読み聞かせ(dialogic reading)、読みながら子どもに質問する方法、が効果的です。
4. 「言わせようとしない」
重要な注意点:
- 「ほら、"りんご"って言ってごらん」と言わせようとしない
- 言葉が出ないことを叱らない・焦らない
- 子どもが「あ!」と指差したら「りんごだね。赤いりんごだね」とさりげなくモデルを示す
子どもは「言わされた言葉」よりも「自然な文脈で聞いた言葉」のほうがよく学ぶことがわかっています [12]。焦って「言ってごらん」を繰り返すと、子どもが話すこと自体にプレッシャーを感じ、逆効果になることがあります。
数字のまとめ
数字 意味 約15% 1歳半で有意語がまだ出ていない子の割合。珍しくない [1][2] 80% Late Talker(遅咲きタイプ)のうち、4〜5歳までに自然に追いつく割合 [5][6] 50語 語彙の爆発期が始まる目安の語彙数(18〜24ヶ月頃)[1] 12ヶ月 指差しの出現目安。言語発達の重要な前駆サイン [3] 3つ 要注意の赤信号サイン(指差しなし、名前に振り向かない、言葉の退行)[11]
今号のまとめ
- 1歳半で言葉が出ていない子は約15%。珍しいことではありません
- 発語の時期は個人差が非常に大きく、それ自体は正常なバリエーションです
- Late Talker(遅咲きタイプ)の約80%は4〜5歳までに自然に追いつきます
- 「話す言葉の数」よりも「理解している言葉の数」「指差し」「社会性」のほうが重要な指標です
- 指差しがない、名前に振り向かない、言葉が消えた場合は受診を
- 家庭では語りかけ・読み聞かせ・BGテレビオフが効果的です
- 焦らず、比べず、でも「心配なサイン」は見逃さないのがポイントです
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