愛育病院 小児科おかもん だより Vol.328
「父親の産後うつ」、見落とされがちな、もう一人の当事者
今号のポイント
- 2父親の約10%が産後うつを経験する、母親と同程度の頻度です[1]
- 4父親の症状はイライラ・引きこもり・飲酒増加など、母親とは異なる形で現れます
- 6母親と父親の産後うつは連鎖しやすく、早期に気づくことが家族全体を守ります
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
前号(Vol.327)では母親の産後うつを取り上げました。今号のテーマは「父親の産後うつ」です。「産後うつは母親のもの」と思っていませんか?実は父親にも同じくらいの頻度で起こることがわかっています。
Q1. 父親も産後うつになるのですか?
お父さん:正直、産後うつは妻の問題だと思っていました。男性もなるのですか?
おかもん先生:なります。Paulsonらによる43研究・28,004人を対象としたメタ分析では、父親の産後うつの有病率は約10.4%と報告されています[1]。とくに産後3〜6か月にピークを迎える傾向があります。
母親の産後うつが産後すぐ〜数週間で発症することが多いのに対し、父親の場合はやや遅れて出現することが特徴です。これは、赤ちゃんとの生活が本格化し、睡眠不足や役割変化のストレスが蓄積するためと考えられています。
ポイント 父親の産後うつは「ある」という認識を持つことが第一歩です。10人に1人、けっして珍しくありません。
Q2. なぜ父親が産後うつになるのですか?
お母さん:出産したのは私なのに、夫もなるのはなぜですか?
おかもん先生:父親の産後うつには、いくつかの生物学的・心理社会的な要因が関与しています。
生物学的要因:
- テストステロンの低下:子どもが生まれると父親のテストステロン値が低下することが知られています[2]。これは「養育行動を促進するための適応的変化」と考えられていますが、気分の落ち込みにもつながります。
- 睡眠不足:夜間の授乳やおむつ替えへの対応で慢性的な睡眠不足に陥ります。
心理社会的要因:
- 役割の急激な変化:「夫」から「父親」へのアイデンティティの移行
- パートナーとの関係性の変化:妻の関心が赤ちゃんに集中し、疎外感を感じる
- 経済的プレッシャー:「家族を養わなければ」という責任感の増大
- サポートの欠如:男性は悩みを打ち明ける相手が少ない傾向がある
ポイント 出産を経験していなくても、ホルモン変化・睡眠不足・役割変化のトリプルパンチで父親もメンタルに影響を受けます。
Q3. 父親の産後うつは母親とは症状が違うのですか?
お父さん:男性の場合、どんなサインに注意すればよいですか?
おかもん先生:父親の産後うつは、母親とは異なる形で現れることが多いのが特徴です[3]。
母親に多い症状:
- 悲しみ、涙もろさ
- 不安感
- 赤ちゃんへの愛着の低下
父親に多い症状:
- イライラ・怒りっぽさ(「なぜかすぐキレてしまう」)
- 引きこもり(家族との関わりを避ける、帰宅が遅くなる)
- 飲酒量の増加
- 攻撃的な言動
- 仕事への過度な没頭(育児からの逃避)
- 身体症状(頭痛、胃腸の不調)
このように「典型的なうつ症状」とは異なるため、本人も周囲も気づきにくいのです。「最近夫がイライラしている」「帰りが遅い」「お酒が増えた」と感じたら、それは産後うつのサインかもしれません。
ポイント 父親の産後うつは「怒り」や「逃避」の形で現れやすい。泣いたり落ち込んだりするだけがうつではありません。
Q4. 母親と父親の産後うつは関連しますか?
お母さん:夫婦で同時になることはありますか?
おかもん先生:はい、母親と父親の産後うつには強い相関があります。Paulsonらの研究でも、母親が産後うつの場合、父親も産後うつになるリスクが有意に高いことが示されています[1]。
これは悪循環を生みます。母親がつらいときに父親もつらいと、互いに支え合うことができません。子どもへの影響も大きく、両親ともに産後うつの場合、子どもの情緒的・認知的発達への悪影響が増大することが報告されています[4]。
だからこそ、片方がつらいときにもう片方が気づき、助けを求めることが重要なのです。
ポイント 夫婦の産後うつは連鎖します。「二人とも大丈夫じゃない」状態を防ぐために、早めの相談が大切です。
Q5. 男性は受診しにくいと聞きますが?
お父さん:正直、「男がうつで病院に行く」というのは抵抗があります。
おかもん先生:その気持ちは多くの男性が感じていることです。「男は強くあるべき」「弱音を吐いてはいけない」という社会的なプレッシャーが、受診のハードルを高くしています[5]。
しかし、産後うつは意志の弱さではなく、脳の状態の変化です。風邪をひいたら病院に行くのと同じことです。
相談先としては:
- かかりつけの内科:まずは身近な医療機関でOK
- 心療内科・精神科:専門的な治療が必要な場合
- 地域の保健センター:港区では保健師に相談できます
- 父親学級・パパサークル:同じ立場の父親と話すことで楽になることも
最近は「父親学級(パパクラス)」の重要性が注目されています。父親同士で悩みを共有し、育児スキルを学ぶ場があると、孤立を防ぎ、産後うつの予防にもつながります[5]。
ポイント 「助けを求めること=弱さ」ではありません。家族を守るためにこそ、自分のケアが必要です。
まとめ
産後うつはお母さんだけの問題ではありません。お父さんも10人に1人が経験します。症状の出方が異なるため見落とされがちですが、放置すると夫婦関係、そして子どもの発達にも影響します。
「自分は大丈夫」と思い込まず、つらいと感じたら声を上げてください。そして周囲の方へ:お父さんの変化にも目を向けてあげてください。
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