愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.139
「キスの病気?」、EBウイルスと伝染性単核球症を正しく知ろう
今号のポイント
- 2EBウイルスは唾液を介して感染し、日本人の95%以上が成人までに感染する
- 4乳幼児期の初感染は軽症が多いが、思春期以降は「伝染性単核球症」として発症しやすい
- 6脾腫がある場合は脾臓破裂のリスクがあるため、激しい運動は4〜6週間控える
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「ずっと熱が下がらない」「首のリンパ節がすごく腫れている」、こうしたお子さんが外来にいらっしゃると、EBウイルスによる伝染性単核球症を疑うことがあります。
あまり聞き慣れない名前かもしれませんが、実は日本人の95%以上が成人までに感染するほどありふれたウイルスです [1]。今回は、EBウイルス感染症について詳しくお伝えします。
Q1.「EBウイルスって何ですか?どうやってうつるのですか?」
——EBウイルスって初めて聞きました。珍しい病気ですか?
実はとても身近なウイルスです。Epstein-Barrウイルス(EBV)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスで、別名ヒトヘルペスウイルス4型(HHV-4)とも呼ばれます [1]
感染経路 [1][2]:
| 経路 | 説明 |
|---|---|
| 唾液感染 | 最も多い。食器の共有、親の口移しなど |
| 飛沫感染 | 咳やくしゃみによる近距離での伝播 |
| その他 | 輸血、臓器移植(まれ) |
海外では"Kissing Disease(キスの病気)"とも呼ばれますが、日本では乳幼児期に家族内で唾液を介して感染するケースがほとんどです [2]。3歳までに約70%が感染するとされています
ポイント
- EBウイルスは唾液を介して感染する非常にありふれたウイルス [1]
- 日本人の95%以上が成人までに感染 [2]
- 乳幼児期の感染は無症状〜軽症が多い [2]
Q2.「伝染性単核球症って、どんな症状が出ますか?」
——EBウイルスに感染すると、必ず症状が出るのですか?
年齢によって大きく異なります [3]。乳幼児期の初感染は不顕性感染(症状が出ない)か軽い風邪症状で済むことが多いです。一方、思春期以降に初めて感染すると、伝染性単核球症(IM)として発症しやすくなります [3]
伝染性単核球症の主な症状 [3][4]:
| 症状 | 頻度・特徴 |
|---|---|
| 発熱 | 1〜2週間持続する高熱(38〜40度) |
| 咽頭痛・扁桃炎 | 扁桃に白い膿が付着し、強い痛み |
| 頸部リンパ節腫脹 | 特に後頸部のリンパ節が目立つ |
| 肝脾腫 | 肝臓・脾臓の腫大(約50%) [4] |
| 皮疹 | 約10〜15%に出現 |
| 眼瞼浮腫 | まぶたのむくみ(特徴的) |
| 倦怠感 | 数週間〜数ヶ月続くことも |
特に注意が必要なのはアモキシシリンなどのペニシリン系抗生物質を投与すると、皮疹が出やすいことです。古い報告では70〜100%とされていましたが、Chovel-Sellaらの小児を対象とした研究では約33%と報告されています [4]。いずれにせよ一般の薬疹より高率で、溶連菌と誤診されて抗生物質を処方されたあとに全身の発疹でIMと気づくケースも少なくありません
ポイント
- 乳幼児は軽症、思春期以降は重症化しやすい [3]
- 発熱・咽頭痛・リンパ節腫脹が3大症状 [3][4]
- ペニシリン系抗生物質で皮疹が出やすいため要注意 [4]
Q3.「どんな検査で診断するのですか?」
——溶連菌のように迅速検査で分かりますか?
溶連菌ほど簡単ではありませんが、いくつかの検査を組み合わせて診断します [5]
診断に用いる検査 [5][6]:
| 検査 | 内容 |
|---|---|
| 血液検査 | 白血球増加+異型リンパ球の出現(10%以上)が特徴的 [5] |
| 肝機能検査 | AST・ALTの上昇(約90%に認められる) |
| EBウイルス抗体検査 | VCA-IgM陽性→急性期、EBNA抗体陰性→初感染を示す [6] |
| 迅速検査(異好抗体) | Monospot testなど。小児では偽陰性が多い [5] |
小さいお子さんでは異好抗体が陰性のことが多いので、EBウイルス特異抗体(VCA-IgM、VCA-IgG、EBNA)の組み合わせで判断します [6]。検査結果が揃うまで1週間ほどかかることもあります
ポイント
- 異型リンパ球の出現が血液検査の特徴 [5]
- 確定診断にはEBウイルス特異抗体の検査が必要 [6]
- 小児では異好抗体は偽陰性が多い [5]
Q4.「治療法はありますか?特効薬はあるのですか?」
——抗生物質で治りますか?
EBウイルスはウイルスですので、抗生物質は効きません。現在のところ特効薬はなく、対症療法が中心です [7]
治療の基本 [7]:
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 安静・休養 | 十分な休息が最も重要 |
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン(カロナール)で発熱・咽頭痛を緩和 |
| 水分補給 | 喉が痛くても少量ずつこまめに |
| 入院適応 | 経口摂取困難、気道狭窄、脾腫が著しい場合 |
最も注意すべきは脾臓の腫大です。脾臓が腫れている間に腹部への衝撃を受けると、脾臓破裂という命に関わる合併症を起こす可能性があります [7]。そのため脾腫がある間は、激しい運動や接触スポーツを4〜6週間控えるよう指導しています
——4〜6週間って、けっこう長いですね…
お気持ちはわかりますが、脾臓破裂は非常に危険です。超音波検査で脾臓の大きさを確認しながら、運動再開の時期を判断しますので、焦らずいきましょう [7]
ポイント
- 特効薬はなく、対症療法が中心 [7]
- ペニシリン系抗生物質は投与しない(皮疹誘発のため) [4]
- 脾腫がある間は激しい運動を4〜6週間控える [7]
Q5.「後遺症や合併症はありますか?」
——長引くと聞きましたが、後遺症が残ることはありますか?
ほとんどのお子さんは2〜4週間で回復します [3]。ただし、倦怠感が数ヶ月続くこともあります。まれですが、以下のような合併症に注意が必要です [7][8]
注意すべき合併症 [7][8]:
| 合併症 | 頻度・特徴 |
|---|---|
| 脾臓破裂 | 0.1〜0.5%。腹痛・血圧低下で緊急手術 [7] |
| 気道閉塞 | 扁桃の著しい腫大による。ステロイド投与を検討 |
| 血液合併症 | 溶血性貧血、血小板減少(まれ) [8] |
| 神経合併症 | 脳炎、ギラン・バレー症候群(非常にまれ) [8] |
| 慢性活動性EBV感染症(CAEBV) | 極めてまれだが重篤。専門医への紹介が必要 [8] |
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は非常にまれですが、発熱・肝障害・リンパ節腫脹が6ヶ月以上持続する場合に疑います [8]。造血幹細胞移植が唯一の根治的治療法です。通常のIMとは全く別の病態ですので、過度な心配は不要ですが、症状が長引く場合は主治医にご相談ください
ポイント
- ほとんどは2〜4週間で回復する [3]
- 脾臓破裂は最も注意すべき合併症 [7]
- 症状が6ヶ月以上続く場合はCAEBVを疑い専門医へ [8]
まとめ
- EBウイルスは唾液感染で広がり、日本人の95%以上が成人までに感染 [1][2]
- 乳幼児は無症状〜軽症、思春期以降は伝染性単核球症として発症 [3]
- 発熱・咽頭痛・リンパ節腫脹が3大症状 [3][4]
- ペニシリン系抗生物質で皮疹が出るため投与しない [4]
- 脾腫がある間は激しい運動を4〜6週間控える [7]
- ほとんどは2〜4週間で回復する [3]
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