愛育病院 小児科おかもん だより Vol.317
「転んで前歯をぶつけた!」、乳歯の外傷、親が知るべき対応
今号のポイント
- 2乳歯の外傷は1〜3歳に多い。出血時はまずガーゼで圧迫止血を
- 4乳歯が抜けても再植は不要。永久歯が抜けた場合は牛乳に入れて30分以内に歯科へ
- 6ぶつけた後の歯の変色は歯髄壊死のサイン。永久歯への影響もあるため歯科でフォローを
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「転んで前歯をぶつけて血が出ています」「歯がグラグラしているのですが大丈夫ですか」「ぶつけた歯が黒くなってきました」。歩き始めのお子さんを持つご家族から、外来で本当によく聞く質問です。
1〜3歳は頭が重くバランスも未熟で、転倒で上の前歯をぶつけることが多い時期です [1][2]。慌てるのは当然ですが、初期対応と受診のタイミングを押さえておけば落ち着いて動けます。
Q1.「歯をぶつけて出血しています。まず何をすればいいですか?」
——子どもが転んで口から血が出ています。歯が折れたかもしれません。どうすればいいですか?
まず落ち着いて。口の中は唾液と混ざって、実際より出血が多く見えます [1]。次の順で対応してください
| ステップ | 対応 |
|---|---|
| 1. 止血 | 清潔なガーゼやハンカチで出血部位を5〜10分間しっかり圧迫 [1][3] |
| 2. 口の中を確認 | 出血が落ち着いたら、歯が折れていないか、グラついていないか、歯茎の傷を確認 [1] |
| 3. 歯の破片を探す | 歯が欠けている場合、破片があれば拾って保管(接着できる場合がある)[3] |
| 4. 冷やす | 唇や歯茎が腫れている場合、外側から冷たいタオルで冷やす [1] |
| 5. 受診判断 | 下記の受診基準を参考に、歯科(または小児歯科)を受診 [1][2] |
——出血がなかなか止まりません
口の中は血流が豊富で、出血が目立ちます。それでも圧迫を10分以上続ければ、ほとんどは止まります [1]。ガーゼを噛ませるか、指でしっかり押さえてください。止まらないときは歯科または救急へ
| 受診の緊急度 | 状況 |
|---|---|
| すぐに受診(当日) | 歯が抜けた、大きく折れた、ぐらつきが強い、歯の位置がずれた、出血が止まらない [1][2] |
| 翌日までに受診 | 歯が少しグラつく、小さく欠けた、歯茎の腫れ [2] |
| 1週間以内に受診 | ぶつけたが見た目に異常なし(念のため確認)[2] |
ポイント
- 口の出血はガーゼで5〜10分間圧迫止血が基本 [1][3]
- 出血は唾液と混じり多く見えるが、多くは圧迫で止まる [1]
- 歯が抜けた・大きく折れた・位置がずれた場合は当日中に歯科受診 [1][2]
Q2.「歯がグラグラしています。抜けそうで心配です」
——ぶつけた前歯がグラグラしています。抜けてしまいませんか?
ぶつけた後のグラつきは段階があります [2][4]。程度で対応が変わります
状態
- 振盪(しんとう)
- 歯に衝撃を受けたが、グラつきなし。触ると痛い [4]
- 亜脱臼(あだっきゅう)
- 歯が少しグラグラするが、位置は正常 [4]
- 側方脱臼
- 歯が前後や横にずれている [4]
- 挺出(ていしゅつ)
- 歯が上に飛び出している(長くなったように見える)[4]
- 陥入(かんにゅう)
- 歯が歯茎の中に押し込まれている [4]
- 完全脱臼(脱落)
- 歯が完全に抜けた [4]
対応
- 振盪(しんとう)
- 経過観察でOK [4]
- 亜脱臼(あだっきゅう)
- 軟らかい食事で経過観察。1〜2週間で安定することが多い [2][4]
- 側方脱臼
- 歯科受診が必要。整復・固定を行う [4]
- 挺出(ていしゅつ)
- 歯科受診が必要 [4]
- 陥入(かんにゅう)
- 歯科受診が必要。永久歯胚への影響を確認 [2][4]
- 完全脱臼(脱落)
- 乳歯→再植は通常不要。永久歯→緊急対応(Q3参照)[2][5]
軽いグラつき(亜脱臼)なら、触らず軟らかい食事にして1〜2週間。多くは自然に安定します [2][4]。歯並びに影響が出そう、痛みが強い場合は歯科へ
——陥入(歯茎に埋まってしまった場合)は怖いですね
はい。陥入は乳歯外傷でいちばん注意すべきタイプです [2][4]。歯茎に押し込まれた衝撃が、下にある永久歯の芽(歯胚)を傷つけることがあります [2][6]。陥入を見たら必ず歯科を受診し、レントゲンで永久歯胚の位置と状態を確認してもらってください [4]
ポイント
- 軽度のグラつきは軟らかい食事で経過観察。多くは1〜2週間で安定 [2][4]
- 歯の位置がずれた(側方脱臼・挺出・陥入)場合は歯科受診が必要 [4]
- 陥入は永久歯胚への影響に注意。必ずレントゲンで確認を [2][6]
Q3.「歯が抜けてしまいました。どうすればいいですか?」
——転んだ拍子に前歯が完全に抜けてしまいました!
乳歯と永久歯では対応がまったく違います。ここは覚えておいてください [2][5]
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 乳歯が抜けた場合 | 再植(元に戻す処置)は通常行いません [2][5] |
| 永久歯が抜けた場合 | 緊急事態!30分以内に歯科を受診 [5][7] |
——乳歯は戻さなくていいんですか?
はい。乳歯を再植しない理由は以下の通りです [2][5]
| 理由 | 説明 |
|---|---|
| 永久歯胚への損傷リスク | 再植の処置自体が、その下にある発育中の永久歯を傷つける可能性がある [2][5] |
| 感染リスク | 再植した乳歯が感染を起こし、永久歯胚に波及する可能性 [5] |
| 吸収リスク | 再植した乳歯が癒着や異常吸収を起こし、永久歯の萌出を妨げる可能性 [5] |
| 永久歯が生えてくる | いずれ永久歯に生え替わるため、乳歯の喪失は長期的には問題にならないことが多い [2] |
一方、永久歯が抜けたときは緊急事態です [5][7]。次の対応を覚えておいてください
| 永久歯が抜けた時の対応 | 具体的方法 |
|---|---|
| 歯を拾う | 歯の根(下の部分)は触らない。冠部(上の白い部分)を持つ [5][7] |
| 汚れを落とす | 水道水で軽くすすぐ程度(10秒以内)。ゴシゴシ洗わない [5] |
| 保存液に入れる | 牛乳がベスト。なければ口の中(頬と歯茎の間)に含む [5][7] |
| 30分以内に歯科へ | 時間が勝負。再植の成功率は時間とともに低下する [5][7] |
| 保存液の優先順位 | 理由 |
|---|---|
| 1. 歯牙保存液(デントサプライなど) | 歯根膜細胞の生存に最適 [7] |
| 2. 牛乳 | 浸透圧がちょうどよく、歯根膜細胞を6時間程度保護できる [5][7] |
| 3. 生理食塩水 | 牛乳がない場合の代替 [7] |
| 4. 口の中(唾液) | 他に何もない場合。誤飲に注意 [5] |
| NG: 水道水 | 低張液のため歯根膜細胞が死滅する [5][7] |
| NG: ティッシュに包む | 乾燥により歯根膜が壊死する [5] |
ポイント
- 乳歯が抜けた場合は再植不要。永久歯胚を守ることが優先 [2][5]
- 永久歯が抜けたら牛乳に入れて30分以内に歯科へ [5][7]
- 歯の根は触らない。水道水に長く浸さない [5][7]
Q4.「ぶつけた歯が黒く変色してきました。永久歯に影響はありますか?」
——2週間前にぶつけた歯が、だんだん茶色〜黒っぽく変色してきました。大丈夫ですか?
歯の変色は、歯髄(しずい、歯の中の神経と血管)が傷ついたサインです [2][6][8]。外傷後の変色にはパターンがあります
意味
- ピンク〜赤みがかった色
- 歯髄内の出血。血液成分が象牙質に浸透 [6][8]
- 灰色〜黒色
- 歯髄壊死(神経が死んだ状態)の可能性が高い [6][8]
- 黄色
- 歯髄が反応して象牙質を過剰に形成している [8]
経過
- ピンク〜赤みがかった色
- 数週間〜数ヶ月で回復することもある [8]
- 灰色〜黒色
- 自然回復は難しいことが多い [8]
- 黄色
- 歯の生活力は保たれていることが多い [8]
灰色〜黒色に変色した場合は、歯髄壊死のことが多いです [6][8]。壊死した乳歯はそのままでも経過が落ち着くことがありますが、次のサインが出たら歯科で処置が必要です
| 処置が必要なサイン | 理由 |
|---|---|
| 歯茎にニキビのような腫れ(フィステル) | 歯根の先に膿が溜まっている(根尖性歯周炎)[6][8] |
| 歯茎の腫れ・痛み | 感染の広がり [8] |
| 歯の動揺が進行 | 歯根の吸収が進んでいる可能性 [6] |
——永久歯への影響が心配です
乳歯の外傷が永久歯に影響することはあります [2][6][9]。注意すべきは次のケースです
説明
- エナメル質の白斑・形成不全
- 永久歯の表面に白い斑点やくぼみができる [6][9]
- 永久歯の萌出方向の異常
- 永久歯が曲がって生えてくる [9]
- 永久歯の萌出遅延
- 生え替わりが遅れる [6]
- 永久歯胚の壊死
- 永久歯そのものが発育しない(非常にまれ)[9]
頻度
- エナメル質の白斑・形成不全
- 比較的多い
- 永久歯の萌出方向の異常
- まれ
- 永久歯の萌出遅延
- まれ
- 永久歯胚の壊死
- 非常にまれ
影響の出やすさは、外傷を受けた年齢と外傷の種類で変わります [6][9]。年齢が低い(特に3歳以下)ほど、永久歯胚が発育初期で影響を受けやすいとされます [9]。なかでも陥入は永久歯へのリスクが最大です [2][6]
ですので乳歯をぶつけたときは、当座に大きな問題が見えなくても、定期的な歯科フォローをおすすめします [2][8]。レントゲンで永久歯胚をチェックし、変化があれば早めに対応できます
ポイント
- 外傷後の灰色〜黒色の変色は歯髄壊死のサイン [6][8]
- 歯茎の腫れ(フィステル)が出たら歯科受診を [6][8]
- 3歳以下の陥入は永久歯への影響リスクが最も高い [2][6][9]
- 乳歯外傷後は定期的な歯科フォローが重要 [2][8]
まとめ
- 乳歯の外傷は1〜3歳に多い。転倒による上の前歯の損傷が最多 [1][2]
- 出血時はガーゼで5〜10分間圧迫止血 [1][3]
- グラつきが軽度なら軟らかい食事で経過観察。位置がずれたら歯科へ [2][4]
- 乳歯が抜けても再植は不要。永久歯胚を守ることが優先 [2][5]
- 永久歯が抜けたら牛乳に入れて30分以内に歯科へ(緊急事態)[5][7]
- 歯の灰色〜黒色の変色は歯髄壊死のサイン。歯科でフォローを [6][8]
- 3歳以下の陥入は永久歯への影響リスクが高い。レントゲンで確認を [2][6][9]
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